ISSN 1884-2135

情報システム学会誌
JISSJ Journal of the Information Systems Society of Japan

第 14巻 第2号
Vol. 14, No. 2

「AI時代における人間中心の情報システム」特集号

[学会誌表紙]

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[巻頭言]

「AI時代における人間中心の情報システム」特集号に寄せて

著者
大曽根 匡

i-ii

[招待論文]

実行可能なAI技術のための条件

著者
西垣 通
表紙
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要旨
AI技術を実践的に活用するためにいかなる条件が必要かについて,考察を加える.インターネットにあふれるビッグデータの活用をめざして第三次AIブームが起きている.深層学習に代表される新たなAI技術は,画期的な情報技術革新であり,経済成長をもたらすという期待の声が高い.さらには,やがて人間より賢いAIが出現し,人間にかわって仕事をしてくれるというシンギュラリティ仮説も話題を呼んでいる.しかし,そういった夢想を語る前にまず,現在のAI技術の特徴に注目し,それが実社会で善用されるための条件を見極めないとブームは消滅してしまうだろう.現在のAIの特徴は,深層学習に代表される統計処理である.統計処理なので確率的な誤りが発生するが,この点に配慮しつつシステムを運用する保守維持技術の確立が第一の条件となる.さらにまた,AIの自律性を過信すると人間が機械的なデータに還元され,自由のない抑圧的な社会となってしまう.これを防ぐため,情報概念を単に機械的なものでなく社会的/生命的なものに拡張する情報教育の普及が第二の条件である.これら二条件が満たされないかぎり,人間中心のAI情報社会の構築は困難となるだろう.

1-6

[招待論文]

人工知能(AI)とロボットがもたらす社会的インパクト: 「ヒューマン・ファースト・イノベーション」に向けて

著者
高橋 利枝
表紙
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要旨
本論文の目的は,人工知能(AI)やロボットがもたらす社会的インパクトを理論的かつ経験的に捉えることである.まず理論枠組みとして,これまで理論と経験的調査研究との往還運動を通して発展させてきた「コミュニケーションの複雑性モデル」について紹介をする.次に,AIやロボットに関する日本と西欧の差異についてアプローチしていく.両者の差異に関しては,これまで思想や宗教的な観点から主に多く説明されてきた.そのため本稿では,ケンブリッジ大学との共同研究「グローバル・AIナラティブ」プロジェクトから,1920年代以降のAIナラティブについて社会経済的な力学から考察を試みたいと思う.さらに人とAI/ロボットとのエンゲージメントに関する実態について,現在行なっている2つの調査研究—若者とAI調査,高齢者のロボット・エンゲージメントから考察する.最後に今後のAI/ロボット開発において必要な「ヒューマン・ファースト・イノベーション」について提案したいと思う.

7-17

[招待論文]

人間中心システムの理念深耕の必要性

著者
刀川 眞
表紙
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要旨
AIがブームになっている.第1次,2次に続き,今回の第3次ブームのAIの中核には大量のデータを基にした帰納推論機能がある.帰納推論とは多くの事象から一般的,普遍的と考えられる規則や法則を導き出すものだが,得られた規則や法則が必ずしも「真」とは限らない.またコンピュータは意味を扱えないため,推論結果に対する意味の付与や論理の構築は人間の役割となる.その際,たとえば効率重視の視点に立つのか,人間尊重の視点に立つのかで目指すシステムが異なる可能性がある.もちろん本学会の問題意識は後者であるが,人間中心システムの理念自体が必ずしも明確でないため,満足の行く意味づけ・理論付けができない恐れがある.これは本学会の特色を曖昧にするだけでなく,人間中心という崇高な理念を粗雑に扱う原因になりかねない.今こそ人間中心の理念を深耕し,システムとしての要件や特性を明確化する必要がある.これは学術的進展や,それに伴う本学会の発展に寄与するだけでなく,今後,一層,拡大・浸透するであろう情報システムと,それを通じて人間や組織・社会の健全な発展を促す力にもなると期待される.その際に考慮すべきは,人間中心システムであることに対して合理性を持たせることがある.合理性を無視した人間中心の主張は単なる啓蒙活動に留まる可能性があるからである.

18-20

[招待論文]

AI社会における「人間中心」なるものの位置づけ

著者
河島 茂生
表紙
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要旨
本論文は,人間と機械との同質性/異質性を整理したうえでAIの倫理綱領等を考察している.ネオ・サイバネティクスの理論に基づき人間と機械との間に違いが明確にあることを示し,「人間中心」社会の倫理的基盤を確認した.その後,AIネットワーク社会推進会議が提案した利活用原則(案)の公平性の原則を検討した.公平性の原則で論点として挙げられている「人間の判断の介在」の意義は,人間の人生を左右する判断に関しては,機械の異常品を検知するのとは違い,機械に責任転嫁せず,人間の責任で行うことが求められるということである.唯一性を備えたオートポイエティック・システムの集合体たる人間に対する重要な意思決定については,同じくオートポイエティック・システムの集合体である人間が覚悟をもって行うべきものである.また公平性には,社会的な不安定性が増しているなかで,人々が社会的排除に陥るのを防ぐ包摂の考え方が含まれることが望ましい. 

21-28

[招待論文]

人工知能技術による創造性を生かした 人間中心のサイバーフィジカルシステム

著者
中西 崇文
表紙
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要旨
サイバーフィジカルシステムの本質は,デジタルツインと呼ばれるように仮想世界上に現実世界を写像した空間を創造することにある.現実世界で起こる様々な事象をデータとしてセンシングし,仮想世界に蓄積する.この蓄積されたデータを様々な統計,人工知能技術を使って分析,検索,統合することにより,通常人間が気づかない事実をリアルタイムに発見することが可能となる.これは人間にとって,新たな知覚系を得ることと考えることができる. 我々人間はサイバーフィジカルシステムという新たな知覚系を得ることにより,現実世界をより客観的に俯瞰することができるだけでなく,我々人間が本来持ち合わせている創造性を生かした生産活動を促進することができる.つまり,人工知能技術を含むサイバーフィジカルシステムは,物質的な欲求を満たす社会から心や精神的な欲求を満たす社会に変革する中で,人間の創造性をエンハンスし,サポートする存在となる.創造性を生かした生産活動をキーとした人間中心のシステムが構築されていくだろう.

29-32

[招待論文]

いま,あらためて 「人間中心の情報システム」について考える

著者
中嶋 聞多
表紙
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要旨
人工知能はわれわれにどのような近未来をもたらすのか.そのとき人間中心の情報システムはどこへゆくのだろうか.これは『ホモ・デウス』と基礎情報学の視点から読み解く,野心的なエッセイである.  

33-36

[記事]

特集号の編集を終えて

著者
砂田 薫
表紙
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37-38

[論文]

存在従属クラス図とバージョン管理に基づく 正規化アプリケーション構成法

著者
金田 重郎, 井田 明男, 森本 悠介, 劉 湘涛, 上野 洸史
表紙
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要旨
オブジェクト指向を採用したアプリケーション設計では,構築・保守容易化の観点から,クラスの正規性が重要である.クラス正規化のためには,(1)インスタンスの存在期間が,インスタンス中の属性値の存在期間と一致し,(2)インスタンスのプライマリーキー(PK)に,インスタンスの全属性値が非推移的関数従属する,必要がある.しかし,現実には,あるクラスのインスタンスに関係した一連の処理のため,他クラスのインスタンスの属性値を,当該インスタンスに属性追加してコピーすることがある.この正規形から外れた属性を,本論文では「View的属性」と呼ぶ.View的属性の追加は,クラスの正規性を破壊し,アプリケーションの保守性を低下させる.この問題を解決するため,本論文では,(1)正規性を満たす存在従属クラスを前提として,(2)View的属性は「多重度=1」によりリンクを追跡して得る事とし,(3)任意の時点での属性値を得るため,インスタンスをバージョン管理する,アプリケーション構成法を提案する.本手法によれば,インスタンス生成時に,辿り先のインスタンスへのリンクを一意に決定でき,結果として,インスタンス生成後の任意時点におけるView的属性値を,少ない処理ステップ数で取得できる.提案手法の実現性を確認するため,公営住宅管理システムの仕様書を参考に,クラス数77の存在従属クラス図を描き,46種の帳票に出現するView的属性が,存在従属関連のリンクを辿って取得できる事を確認した.  

39-56

[論文]

情報検索システムの言語バリアフリー化

著者
阿部 真也,吉次 なぎ,三木 大輔,山本 佳世子
表紙
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要旨
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え,今後10年間での外国人観光客の増加が見込まれている.このような背景から,外国人にも利用しやすい観光情報の検索システムが望まれているが,言語の壁が課題となっている.言語の壁を解消するためには,システムの多言語化が一般的である.しかしながら,多言語化によって十分な数の言語を網羅することは難しく,真の意味で言語の壁を解消できない.そこで本稿では,一切の言語を用いずに観光情報を提供する検索システムを開発する.その特徴は,画像やピクトグラム,アラビア数字のみで検索インターフェイスを構成している点である.そして,被験者による評価実験によって,言語を用いずとも観光スポットの検索が可能なことを実証する.  

57-64

[論文]

プローブ情報を活用した信号制御定数パターン 見直し支援システムの構築

著者
塚田 悟之
表紙
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要旨
  交通信号制御機は,信号灯器の点灯制御を担っている.特に,交差点上流に設置された車両感知器が計測した交通量情報に基づき,サイクル,スプリット,オフセットの各信号制御パラメータをリアルタイムに計算するタイプの交通信号制御技術がこれまで積極的に導入されてきた.しかし実際は,それ以前から長く運用され,信号制御パラメータを曜日や時間帯毎に組み合わせたパターンテーブルに従って制御するタイプの信号制御機は数多く存在し,これらの信号制御パラメータの見直しがなされず,信号機設置時のパラメータのままで運用されている.本研究は,このパターンテーブルを交通の流れに見合った形に修正するための支援システムをプローブ情報の活用から提案し,実現可能性を検証した.

65-78

[研究ノート]

Development of a Power-saving, High-availability Server System by Compound Operation of a Multiple-server Backup System and Power-saving Server System

著者
Mitsuyoshi KITAMURA, Youta SHIMIZU, and Koki TANI
表紙
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要旨
  We propose the compound operation of a multiple-server backup system (MSBS) and a power-saving server system (PSS) that can operate independently configured as a power-saving, high-availability server system. The MSBS is based on multiple dynamic backup server systems (DBSSs), each of which manages only one target server. Usually, if two kinds of management programs are operated at the same time, both programs become complicated to prevent malfunctions. Here, we propose and adopt a system interface (SIF) to solve the complexity of the DBSS in compound operation, which is realized by allowing only the DBSS to request editing of the PSS configuration files. Rather than adding the file access and editing functions to the DBSS, we found that the structure was simpler when we added the SIF for this purpose.
和文要旨
pdf

79-88

[第11回シンポジウム 特別講演]

学べない,学ばせない,学ばない日本をどう変える: 5カ国調査から見えてきた日本の情報システム技術者の特徴と職場の課題

講演者
中田 喜文 様(同志社大学 総合政策科学研究科 教授)
表紙
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89-108

[第2回浦昭二記念賞 特別賞 受賞講演]

日本のSE能力は,なぜ低いのか?

講演者
芳賀 正憲 様
表紙
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109-119

[第2回浦昭二記念賞 功績賞 受賞講演]

情報システム開発の繰り返される失敗

講演者
松平 和也 様(株式会社 プライド 創業者 情報学博士)
表紙
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120-127

[解説]

メールマガジンに他社商品の画像が表示される不具合: mobyletで配信したメールとiPhoneのデフォルトメーラーとの相性

著者
寺田 好秀
表紙
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要旨
  2017年ごろにあるメールマガジンの読者が,X社が配信したものをスマートフォンで閲覧したところ,Y社の商品画像が表示されるという不具合が表出した.iPhoneのデフォルトメーラーは受信したHTMLメールのインライン画像とそのcidをキャッシュに登録する.一方,mobyletで配信されるHTMLメールのインライン画像のcidは一意にならない.従って,次のプロセスにより不具合が発生する.(1)mobyletを採用したシステムで配信したY社のHTMLメールをiPhoneで開くと,そのインライン画像がキャッシュに登録される.(2)X社がmobyletを採用した他のシステムで,Y社のインライン画像と同じcidを持つものをHTMLメールで先のiPhoneに配信する.(3)そのiPhoneでX社の配信したメールを開封すると,X社のインライン画像ではなく,同じcidを持つキャッシュに登録されたY社のインライン画像がX社のHTMLメールに表示される.

128-130


奥付