一般社団法人 情報システム学会
一般社団法人情報システム学会
情報システム
情報システムの分類
著者:佐藤 敬
 
 情報システムにはいくつかの視点による分類方法がある。それらを以下に示すが,これらは切り口の違いによるのであって,異なる分類の中に同じ情報システムの事例が登場する場合もある。また,情報システムの位置付けを明らかにするために,以下の分類にはデータ処理システムに近い狭義の情報システムも含まれている。また,情報の創造・利用活動,意思決定など人間の情報活動に直接かかわる情報システムについては,後述する。

a.企業情報システムと社会情報システム
 企業の内部で利用される情報システムが企業情報システムで,後述するように,業務内容の相違,基幹業務か否か,組織活動のサイクルの観点から,さらに細分することができる。一方、社会情報システムは,社会の利用に供されている情報システムである。交通管制システム,気象情報システム,税務相談システム,住民票発行システムのように官公庁や地方自治体が提供する公共的なシステムのほかに,航空機や鉄道の座席予約システムや銀行の預金オンラインシステムのように企業が社会一般の利用者のために提供するシステムとがある。公共システムとしては電子政府・電子自治体を実現するための行政情報システムが,今後は大きな比重を占めていくことになろう。

b.業務内容の相違による分類

(1)業務系システム(基幹系システム)
 組織(企業)の現場での日常の定型的な業務を処理するための情報システムで,たとえば,販売管理システム,顧客管理システム,生産管理システム,在庫管理システム,財務システム,人事システムなどがある。処理形態としてはトランザクション(transaction)処理主体であり,1度にアクセスするデータ量は情報系システムの場合に比べ少量である。しかし,高レスポンス(応答時間の早いこと),高スループット(処理能力の大きいこと)が要求される。

(2)情報系システム
 組織(企業)の経営者や部門の長が意思決定などの非定型な業務を行うのを支援する情報システムをいう。たとえば,新商品企画,マーケティング,出店計画,融資決定,予算配分,年間生産計画,設備投資計画などのためのシステムがある。処理形態としては問い合わせ・分析処理主体であり,1度にアクセスするデータ量は業務系システムの場合に比べ大量であるが,低レスポンスでよい。ただし,1つのトランザクション処理は高負荷である。また,使用するデータは組織(企業)内部データのみではなく,外部のデータも必要となる。業務系システムが主として現在のデータを使用するのに対して過去から現在までの蓄積データを使用するので,業務系システムでのデータベースに対して,新たにデータウエアハウス(data warehouse)の概念が必要になる。
 なお,ここでいう情報系システムを経営情報システムと呼ぶ場合もあるが,一般に経営情報システムはより広い概念を指すことが多い。

c.利用者・開発者の組織(企業)内の相違による分類

(1)基幹業務情報システム
 基幹業務とは組織(企業)の活動の基幹となる業務のことであり,そこで使用される情報は各部門の業務に大きな影響を与える。その情報システムの内容は上記の業務情報システムとほぼ同じであり,通常利用者は全社のエンドユーザーである。また,この情報システムは大規模で高い信頼性,安全性を要求されることから,システム開発は情報システム部門が担当する。

(2)部門内情報システム
 全社的な基幹業務に対して特定部門の固有業務を処理する情報システムをいう。たとえば,特定部門内のみにクローズされた予算管理システム,顧客管理システム,個人別実績管理システムなどである。このシステムの利用者は部門内のエンドユーザーであり,またシステム開発もエンドユーザー自身が表計算ソフトやデータベースソフトあるいは市販の業務別パッケージソフトを利用してパソコン上で実現する。このように,情報システム部門のコンピュータの専門家ではなく,エンドユーザー自身が自部門の業務処理のために情報システムを開発することをエンドユーザーコンピューティングとよぶ。

d.組織活動のサイクルによる分類
 組織活動は一般に,企画(Plan),実行(Do),評価(See)のサイクルを繰り返すことによって行われるので,それぞれの活動を支援する情報システムを考えることができる。すなわち,主として組織外で生成された情報やデータを収集して計画を立案するための情報システム(Plan情報システム),主として組織内で発生した定型的なデータを処理する情報システム(Do情報システム),主としてDo活動によって発生したデータを分析するための情報システム(See情報システム)である。このうち,Do情報システムは,前述した業務系システムとほぼ同じである。

e.処理形態による分類

(1)集中情報処理システム
 中央に大型・中型の汎用コンピュータ(ホストマシンと呼ぶ)を設置し,そこにすべてのデータを集め,端末機からの依頼によって処理を集中的に行う方式の情報システムである。たとえば,航空機や鉄道の座席予約システム,銀行の預金オンラインシステムなどがその代表的なものである。データの集中化によって一元管理や機密保持が保てる反面,大規模化による開発コスト・開発期間の増大,負荷集中時やダウン時の影響の甚大さが問題となる。

(2)分散情報処理システム
 複数の小型コンピュータをネットワークないし回線で結合して,データを共有しつつそれぞれの業務を分担して処理する方式の情報システムである。集中処理方式と異なり,それぞれのコンピュータが処理能力を持つので1台ずつの負荷が軽くレスポンスも早く,また開発コストも低い反面,データの一貫性やセキュリティの確保などが難しい。最近は分散処理システムの中でも,特定の機能を持ったホスト機(サーバ機)とエンドユーザー側の複数のパソコン(クライアント機)をネットワークに結合したクライアントサーバシステムが主流となっている。代表的なサーバ機の種類としては,それがもつ機能によって通信サーバ,ファイルサーバ,データベースサーバ,プリンタサーバ,ウエブサーバ,メールサーバなどがある。

(3)移動情報処理システム(モバイルコンピューティング)
 ノートパソコンやPDA(Personal Digital Assistance)などの携帯端末と,携帯電話やPHSなどの携帯通信端末を利用して,遠隔地に設置されているサーバに電話回線などを通じてアクセスし,いつでもどこからでも遠隔地のコンピュータ環境が利用できるシステムである。クライアントサーバシステムにおいてクライアント側が自由に移動可能な発展形ということができる。これを利用した情報システムの例としては,営業マンの社外からの業務報告,客先での商品紹介,見積もり照会,ルートセールス先での受注入力,建築現場からのディジタル写真送信,点検保守現場からの図面検索などがある。
佐藤敬(2003)“5.16 情報システム
『情報社会を理解するためのキーワード :2』培風館 [85-95]から出版社の許可を得て転載します。
本稿は,情報システム学会会員である,佐藤敬氏の著作であり,学会の統一見解ではないことをお断りします。
 
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