情報システム学会 メールマガジン 2013.11.25 No.08-08 [7]

連載 著作権と情報システム
第42回 1.著作物[4]比較検証(1)通産省案と文化庁案<5>

司法書士/駒澤大学  田沼 浩

 米国関税法337条は、知的財産権侵害に対するITC(アメリカ国際貿易委員会)による排除命令と差止命令について規定されている。
 ITCは、ダンピングなど不公正な経済行為(貿易)による場合だけではなく、知的財産権の侵害などを調査することで不公正な貿易などの経済行為を是正する機関である。
 1974年から政策の転換によって、アンチパテントからプロパテント政策に転換した米国は、1988年の包括貿易と競争力法の成立によって保護主義が鮮明になったと諸外国から評されることになる。
 その内容は、1974年通商法301条を改正してアメリカ通商代表部が不公正貿易慣行に対する報復措置と、関税法337条による特許侵害などの知的財産権侵害に対する救済措置要件の緩和である。
 特に、1988年の包括貿易と競争力法以前、関税法による救済措置の発動には、(1)不公正な経済行為、(2)国内に対象となる産業が存在すること、(3)その国内産業が効率かつ経済的であること、(4)実質的な被害があることの4つの要件が必要であった。
 しかし、包括貿易と競争力法が(3)の国内産業が効率かつ経済的であるという要件を廃止し、関税法337条が特許権、商標権、登録著作権などの侵害による違法の認定として、(4)の実質的被害要件を立証しなくても救済措置をとれるようにした。また、同法は(2)の国内産業であることも、実際に国内の工場などに投資さえされていれば国内産業とみなすように緩和されている。
 そのため、ITCは、(1)の不公正な経済行為だけをもって、知的財産権の侵害の調査を開始できるようにし、容易に関税法337条に基づく輸入等の排除命令を発動できるようにした。

引用・参照文献
「著作権法概説第13版」 半田正夫著 法学書院 2007年
「著作権法」中山信弘著 有斐閣 2007年
「著作権法第3版」 斉藤博著 有斐閣 2007年
「ソフトウェアの法的保護(新版)」中山信弘著 有斐閣 1992年
「特許法(第2版)」中山信弘著 有斐閣 2012年
「岩波講座 現代の法10 情報と法」 岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編 岩波書店 1997年
Michael L. Dertouzos, Richard K. Lester and Robert M. Solow, Made In America: Regaining the Productive Edge, MIT Press, 1989. MIT産業生産性調査委員会、依田直也訳、『Made in America アメリカ再生のための米日欧産業比較』、草思社 1990年
「米国発明法とその背景」、澤井智毅、経済産業調査会 2012年
「アメリカ通商法の解説」ヴェーカリックス,トーマス・V.ウイルソン,ディーヴィッド・I.ウァイゲル,ケネス・G.松下満雄監訳、商事法務研究会 1989年