情報システム学会 メールマガジン 2013.10.25 No.08-07 [10]

評議員からひとこと
情報学部の学生におけるシステム開発の関心の変化について

文教大学情報学部 准教授 池辺正典

 情報システム学会は,その活動のテーマとして情報系人材の育成を大きなテーマの一つとして掲げている.本稿では,情報学部の学生のシステム開発における関心の変化について確認することで,大学生が持つ情報システムの関心分野の変化を明らかにしたいと考える.
 近年の情報環境の発達により,情報学部の学生が関心を持つシステム開発の要素技術やシステムの開発言語についても変化が見られる.文教大学情報学部では,プログジェクト演習という授業がある.当該授業では,学生が自発的にシステム開発のテーマを設定して,1年間のプロジェクト期間において,成果物を開発するというものであるが,この開発テーマの傾向から大学生の興味分野の変化について確認したい.

 当該授業は2009年度より実施され,今年度分も含めると過去5年間実施しているが,単年度あたりの開発テーマ数は25件前後であり,これまでに合計で127件の開発テーマが実施された.開発テーマの情報システムの種別を確認すると,一般的なアプリケーション,Webシステム,Androidアプリケーション,インタラクティブコンテンツの4種類に分類される.
 最初に,一般的なアプリケーションは,大半がPCでの利用を想定したシステムであり,当該授業の開始当初は25%前後を占めていたが,近年では10%台に落ち込んでいる.授業開始当初は,学部教育においてJavaの学習を行っているという関係から,授業の延長線上として単純にシステム規模の大きなシステムを開発するという傾向が見られたが,近年の開発テーマでは,音声処理,画像処理,自然言語処理等の複雑な処理を必要とするものが多く,入力機器やライブラリ等の制約から最終的に本種別を選定していることが伺える.このことから,学生の関心も単純に規模の大きいシステムを開発するという点から目的に応じて各種技術を用いたシステム開発を行うという意識の変化が確認できる.
 次に,Webシステムでは,この5年間において常に50%前後の開発テーマが本種別に該当し,その大半がDBを利用したシステム開発である.開発言語はPHPが多く,近年はJavaScriptを用いた複雑な処理を行う開発テーマが増加している.さらに,Web標準技術の進展にあわせ,位置情報を用いたシステム開発やGISとの連携,簡単な画像処理等も実装するケースが見られ,要素技術の変化にあわせて柔軟に学生もシステム開発にこれらを取り込むという傾向が見られる.また,開発テーマ数が非常に多く,年次変化が見られないことから,学生にとってWebは最も身近で開発も比較的容易であるという意識が持たれていると考えられる.
 そして,Androidアプリケーションでは,2011年度より開発テーマが見られるようになり,現在では20%前後の開発テーマが本種別に該当する.今後も開発テーマとして増加する傾向が予測され,一般的なアプリケーション開発が減少した要因として,Androidの開発テーマに人気が移ったという点が考えられるために,現在の学生の大学の情報教育におけるJava言語学習の集大成としては,Androidアプリケーションの開発が一つの到達目標になっていることが伺える.開発テーマの中身を確認すると,携帯端末としての特性を活かして位置情報を活用するアプリケーション,大半の端末にカメラが付属していることからAR技術を用いたアプリケーション等が学生の関心を集めている.
 最後に,インタラクティブコンテンツであるが,開発テーマの比率としては10%前後と少なく,2009年当初は,2Dの開発環境によるコンテンツ制作が非常に多かったが,近年は3Dの開発環境に移行していることが伺える.また,従来は単純にユーザーの挙動により,情報を提示するのみのコンテンツが主であったが,現在は簡単なシミュレーション等を想定したコンテンツも見られ,システム的な側面を重視したコンテンツ制作が増えている点が印象的である.

 以上の傾向を総合的に見ると,学生のシステム開発における関心分野は,単純に規模の大きいシステムから,ユーザー視点に非常に近い小規模でのシステム開発にシフトしていると考えられる.ユーザー向けシステムは,Android等の携帯端末の普及に伴い,システムの開発需要として伸びている分野であると考えられるが,情報産業におけるシステム開発では,企業向けの基幹システム等の大規模なシステム開発も依然として重要な位置を占めており,情報産業を目指す学生に如何にして大規模で信頼性の高いシステム開発に関心を向けさせるかという点は非常に重要な課題であろうと考える.
 本学会は産学が緊密に連携していることから,こういった課題に対しても情報産業界と大学教育の両視点から今後の若手人材育成のあり方を牽引するような活動について期待したい.