情報システム学会 メールマガジン 2013.1.25 No.07-11 [13]

連載 プロマネの現場から
第58回 スーザン・ケイン 「内向的な人が秘めている力」

蒼海憲治(大手SI企業・金融系プロジェクトマネージャ)

 TEDカンファレンス注1の中で好きなプレゼンテーションの一つが、スーザン・ケインさんの 「内向的な人が秘めている力」です。このプレゼンは、外向的な性格が、内向的な性格より高く評価される欧米の社会においても、内向的な人間でないとできないことがあること、内向的な性格の評価の見直しを問うています。
 プレゼンの冒頭、スーザンさんが9歳で初めてサマーキャンプに参加した時のことが紹介されています。スーザンさんのお母さんが、スーツケース一杯に本を詰め込んでくれたといいます。スーザンさんの家庭では、家族全員で本を読むのが習慣になっていたので、サマーキャンプも10人の少女が山小屋で一緒に本を読むのだと思っていたというのです。
 ところが、当然ながら予想と異なり、キャンプは、アルコール抜きのパーティみたいなもので、まず、みんなでチアを覚えました。そして、でたらめなかけ声を連呼することでキャンプの精神を高めることをくり返しました。チアの練習後、部屋の片隅みで本を取り出したら、部屋で一番いけてる女の子から、「なんでそんなに醒めているの?」と問い詰められる。再度、本を読もうとすると、キャンプリーダーが心配顔で、キャンプの精神を語り、みんなと一緒に活動的にしないといけないと諭されます。こんな経験は、その後の人生で何十回とあったといいます。
 スーザンさんが書かれた「クワイエット」(*1)の中でも、誰もが、外向的で、積極的であることを強要する自己啓発セミナーで感じた違和感を吐露されています。

 全人口の3分の1から2分の1は、程度の差はあれ、内向的な性格を持っている、といいます。にもかかわらず、私たちは、小さい時から、静かで内向的なことは正しくない、もっと外向的になるよう努力すべきだといわれ続けています。

 ここでいう内向的な性格とは、内気とは異なります。内気というのは、社会的に判断されることを怖れること、人の目を気にすることを指します。一方、内向的であるとは、社会的なことを含め、外部からの刺激を求める必要がないことを指します。外向的な人が、多くの刺激を必要とするのに対し、内向的な人はもっと静かで落ち着いた環境にいる時に、自分の能力を発揮できます。実際に、外向的な人より、内向的な人の方が、成績も良く、知識が豊富であるにもかかわらず、多くの教師は、理想的な生徒は外向的なものと思っています。
 職場においても同様に、第一印象は外向的なリーダーが評価される傾向があります。しかし、創造力を発揮し、大きなリスクを上手く避けることができるのは、注意深い内向的な性格を持つリーダーである、といいます。というのも、外向的なリーダーは、何もかも自分で仕切ってしまい、他の人のアイデアを取り入れないことが多いのに対し、内向的なリーダーの方が、メンバーから上手くアイデアや意見を引き出す傾向があるからです。また、一般的に、一流のセールスマンは、早口で饒舌、立て板に水のごとく話ができる人のような印象があります。
 しかしながら、人間には、2つの耳と1つの口があることを思い出し、自分が顧客の立場になった時のことを振り返ってみると、自分のいいたいことを一方的に話す人よりも、相手の考えや思いを聞くことのできる人、積極的傾聴ができる人とつきあいたいと思います。

 ところで、自分の中の内向的な力を引き出すためには、自分の中に孤独な時間を持つこと、時には引きこもって考えることも重要であると思っています。
 たとえば、チャールズ・ダーウィンは、ビーグル号の大冒険の後、自分の家の近くにあった小径「サンドウォーク」を、20年余も散歩し、思索にふけった後、「種の起源」を著しています。また、画家のピカソは、「孤独がなければ、優れた作品は生まれない」といっています。

 次に紹介する詩人ライナー・マリア・リルケの言葉は、自分と向き合って考えることの必要性、重要性を端的に示しています。
 フランツ・クサーファ・カプスという、詩人を目指している若者がいました。この若者は、出版社に送っても出版の目途が立たないため、リルケに自分の詩を送りつけては、自分の詩を評価してもらおうとしました。リルケはこのカプスの手紙に丁寧に返事を書き、その後の手紙の交流が始まります。現在、この書簡のうち、リルケのもののみが、『若き詩人への手紙』(*2)に収められています。

 この交流の中で、リルケがカプスに書いた一番最初の手紙に、私たちが参考にすべき行動指針が示されています。

≪あなたは御自分の詩がいいかどうかをお尋ねになる。
 あなたは私にお尋ねになる。前にはほかの人にお尋ねになった。
 あなたは雑誌に詩をお送りになる。ほかの詩と比べてごらんになる。
 そしてどこかの編集部があなたの御試作を返してきたからといって、自信をぐらつかせられる。
 では(私に忠言をお許し下さったわけですから)私がお願いしましょう、そんなことは一切おやめなさい。
 あなたは外へ眼を向けていらっしゃる、
 だが何よりも、今あなたのなさってはいけないことがそれなのです。
 誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。
 ただ一つの手段があるきりです。自らの内へおはいりなさい。
 あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい。
 それがあなたの心の最も深い所に根を張っているかどうかをしらべてごらんなさい。
 もしあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。
 何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてごらんなさい、私は書かなければならないかと。
 深い答えを求めて自己の内へ内へと掘り下げてごらんなさい。
 そしてもしこの答えが肯定的であるならば、
 もしあなたが力強い単純な一語、「私は書かなければならぬ」をもって、あの真剣な問いに答えることができるならば、
 そのときはあなたの生涯をこの必然に従って打ちたてて下さい。≫

 実際には、極端に内向的な人や極端に外向的な人は少なく、私たちの多くは、内向的な性格と外向的な性格の中間に位置しています。内向的な性格も外向的な性格も多様な段階があるのだと思いますが、年初ぐらいは、改めて自分の中の内向的な面にも目を向け、自分の内面を見つけることも必要ではないか、と思っています。

(注1)米国で年1回開かれるTechnology、Entertainment、Design分野の卓越した発想が披瀝される講演会。講演内容は、ネットでも動画配信されている。
(*1)Susan Cain - Quiet: The Power of Introverts in a World That Can't Stop Talking
(*2)リルケ『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』高安国世訳、新潮文庫