情報システム学会 メールマガジン 2011.5.25 No.06-02 [4]

第4回 新情報システム学体系化調査研究委員会 開催報告

日時 2011年4月16日 13時30分〜16時30分
講師 江島夏実氏  (株)コンピュータ教育工学研究所
講演テーマ 「情報システム教育に有効な事例の整備に関する研究会」と
       情報システム学への発展
参加者 8名

概要
 第4回の委員会として、学会の「情報システム教育に有効な事例の整備に関する研究会」で情報システム教育に関して研究を行なった成果の延長として情報システム学を展望するとの観点で講演を頂いた。江島氏は大学院時代に研究テーマである会計学について、記述的な研究でなく実証ベースの説明的研究の重要性とその方法論として物事の因果関係を追求することを学んだ。実務経験としてPCを利用した教育の講師請負と教材開発とウェブページ作成サポート等のシステム開発を幅広い顧客より請負った経歴の紹介があった。江島氏は、経験よりアプリケーション開発は、汎用性と専門性の妥協の産物であるが最近の学生は、汎用性を求める上で必要な「帰納」が苦手である傾向が見られ、研究会で情報システム教育に有効な仕組みを検討した結果について説明があった。この仕組みを検討する中で、情報システム学については、「学問」としての情報システム学と「科学」としての情報システム学があるとの考えに立つようになった経緯の紹介があった。

1.事例研究会立上げのきっかけは、専門学校の人材育成事業を受託した時に作成した論理的思考能力評価テストの実施結果を見たからであった。テストは、分類、説明、予測、評価の各3問ずつ計12問を問うもので、結果は学生の傾向として演繹タイプが帰納タイプを大幅に上回っていた。演繹タイプは、あるやり方に沿い実行すれば結果が見られる性質を持つタイプで、例としては、インターネットを使用し検索すると結果が得られるが挙げられる。情報システムのアプリケーション開発には、「汎用性」と「専用性」が必要とされが、実際にはシステムの性質に応じ汎用性と専門性の妥協点を見出すことになる。この汎用性を身に付けるには事例を収集し事例集を構築し一般化する方法を利用者が見出し適用することが有効と考えた。成果は未だ途上であるので機会があれば継続したい。
2.情報システム学を福澤諭吉先生の「学問のすすめ」を参考に考えると実学としての情報システム学、つまり学問としての情報システム学と科学としての情報システム学があると考える。
3.学問としての情報システム学は、ICTが発達した現在においては一般教養・基礎学力の一部であり「理科」、「社会」等と同時に教育するものである。高等学校の教科「情報」はこの趣旨に沿うものであるが如何せん教員養成がネックとなっている。教科「情報」については、情報Aを採用している場合が多い。教員は家庭科教員が教員免許を取得し教育している場合が多い。この事由は指導要領の改訂に伴う教育時間数の増減があるからである。平成25年度からは、情報Aに代え「社会と情報」、「情報の科学」の選択となるが、感想として折衷的で抽象的なカリキュラムと言える。大学レベルについては、ITSSの研修ロードマップが参考になる。情報処理技術者試験共通範囲の「ストラテジ」、「マネジメント」、「テクノロジ」に対応しており大学での教育経験から言えば、1年間の教育期間で学習するには無理があった。また、カリキュラムとしては、情報処理学会が提示している情報専門学科標準カリキュラムJ07-IS(情報システム)とJ07-GE(一般情報処理)は、高校で早期より人材育成する際に有効であると考えている。ただしGEについては1年間の教育期間を想定しているが期間的に不足し、また、DBの取扱に弱点が見られる。
4.「学問としての情報システム学」と「科学としての情報システム学」についての全体像について説明する。学問としての情報システム学の中核(既述の高等学校での情報科目を取捨選択)を高等学校で教育し、小学校高学年から中学までの間に「情報」、「情報システム」の外形的知識(認識・表現・処理・評価・道徳)を教育する。この外形的知識は、「科学としての情報システム」の成果と知見から抽出し大学における情報科学系と社会科学系の専門教育並びに高等学校と中学校の教育へ反映させる。
5.「科学としての情報システム学」の中の科学の定義としては、「物事の性質、他のものとの関係などを一定の目的、方法で研究することによって法則をみつけだし、その応用を考える学問。特に自然科学を指すことが多い。(旺文社)」であるが、この定義に照らした場合、過去に情報や情報システムを科学的にとらえてきたか、また、情報や情報システムに関する法則を見出してきたであろうかの疑問が生じる。この分野は今後の大きなテーマと考えている。
6.「情報システム学」は、自然科学、社会科学、人文科学における様々な領域を参照した学際的な領域と考える。「科学としての情報システム学」としては、道徳(いわゆる情報モラル)、認識(情報や情報システムの連鎖を認識する)、表現(情報システムの入力/出力の表現を知る)、評価(情報システムの入力/出力の効果を評価する)、処理(入力と出力の差を処理としてとらえる)を軸として研究し、そこから得た知見・成果を教育へ反省させて行くことが大事であると考える。

 第4回の委員会として、本日の会合で江島氏が「科学としての情報システム学」を主張されているが、科学的アプローチについては当委員会としても従来から重要性を認識している。また、若い世代に帰納的能力(事実から一般的ルールを見出す)が不足している現象についての指摘は、ICTが浸透している社会状況において生じている点は賛同できる。教育カリキュラムとして情報処理学会の提案している標準カリキュラムが参考になるとの意見については、標準カリキュラムは情報技術的なアプローチの考え方が根底にあり、人間中心の情報システム学体系へのアプローチとやや観点が異なると認識している。講演全般が実体験に基づいた情報システム教育へのアプローチに基づくものであり、今後の委員会活動に参考となるものであった。

(伊藤 重隆記録)