情報システム学会 メールマガジン 2009.7.25 No.04-04 [3]

評議員からのひとこと
「情報システム学会のさらなる発展を願って」

細野 公男

 平成17年に創立され今年4年目を迎えた情報システム学会は、揺籃期を過ぎ発展期に入ったといえよう。創立当時の副会長の一人として学会運営に携わった私にとって、今日のような活動実態を目にすることができるのは、大きな喜びである。これはひとえに会長、副会長、理事、監事、各種委員会委員長を始め多くの会員諸氏によるご努力の賜物であり、心から敬意を表したい。
 平成21年3月には第1回評議委員会が開催され、学会の現状報告と活発な意見交換がなされた。そこでそれらを踏まえていくつか私見を以下に述べてみたい。学会の発展に少しでもお役に立てば幸いである。
情報システム学会では活動の主要なテーマとして、次の3つが重点的に掲げられている。
  1)情報システム人材の育成
  2)実務家と研究者の交流
  3)これからの情報システムのあり方の追求
 情報システムは種々の角度・側面から捉えることができるが、本学会においては実学的な側面から捉える点に重きが置かれている。それはこれら3点からも明らかであろう。それでは、こうした3点が実際の学会活動の中でどのように具体化されているのであろうか。またどのような課題に直面しているのだろうか。

 まず2)はわが学会に特有な重点項目であり、他の関連学会では明確に取り上げられることはあまりないといえよう。こうした交流は研究会や研究発表大会および論文誌やメルマガなどを介して十分なされており、とりたてて言うほどの問題はないと思われる。
 一方、1)と3)に関しては、具体的な取組みを今後どのように展開するかに関して考慮すべき点がいくつかある。実際、何にあるいはどこに焦点を当てるかおよび重点を置くかについて、学会としてのコンセンサスを得ることは、容易ではなさそうである。

 1)の「情報システム人材の育成」は、大学教育の一環として考える場合と企業などの現場での育成を意図する場合とでは、進め方やその内容は大きく異なる。そしてどちらの場合でも解決すべき問題は多い。
 たとえば、大学教育の場ではモデルカリキュラムが国内外を問わずいろいろ構築されているが、わが国ではそれを踏まえた具体的な試みが現実に行われているのであろうか。個々の大学には教育スタッフ、設備、財政的基盤等様々な制約がありまた固有の文化を持っているため、あるべき姿と現実との間には大きなギャップが生じることは避けられない。このような制約や文化は、大学レベルでの情報システム人材の育成を図る際の障害になりやすい。しかし、そうした障害を克服し種々の制約条件のもとで、モデルカリキュラムを踏まえた情報システム教育を具体的に実践する時期に来ているように思われる。大学関係者の前向きで意欲的な取組みが強く望まれる。

 理事会承認のプロジェクトとして取り上げられた「社会保険庁年金問題」は、3)の「これからの情報システムのあり方を追求する」試みの例であろう。社会の仕組みに関して発生する各種の問題を情報システムの観点から論議し提言する意義は、きわめて高い。したがって、「社会保険庁年金問題」の報告がいまだに公表されていないのは残念である。評議委員会での説明では、「理事会での検討で学会として公表するのは問題との指摘があり、保留になってしまっている」とのことであるが、この判断には2つの大きな誤りがあるといえよう。
  第一の誤りは「学会としてプロジェクトの結果を外部へ公表できなかった」という点である。情報システムのあるべき姿を積極的に提言していくことが本学会の役割であることを考えれば、これは大きな問題である。第二の誤りは、このプロジェクトの結末が学会員に報告されていない点である。理事会承認のプロジェクトとして推進したのであるから、理事会はたとえ外部には公表しない場合でも、内部資料として学会員に提供する義務はあろう。評議委員会では「公表するのは問題」と結論付けた理由についての詳しい説明はなかったが、これは説明責任を果たしていないといえよう。
 理事会承認のプロジェクトのようにお墨付きを得たプロジェクトがこのような結末を迎えることは、通常考えられない。これは、問題を検討してその結果をまとめるにあたって理事会とプロジェクト担当者との間あるいはプロジェクト担当者間で、意思の疎通が十分図られていなかったことを示しているのであろうか。

「情報システムは,社会,組織体または個人の活動を支える適切な情報を,収集し,加工し,伝達するための,人間活動を含む社会的な仕組みである」と、本学会では捉えている。この記述においてきわめて重要なキーワードの一つは、伝達つまりコミュニケーションである。これは、円滑な意思疎通(コミュニケーション)が種々の問題の解決に不可欠なことをも示している。こうした点からみて、理事会の判断とその後の対応は、本学会の目指す方向とは合致しなかったといえよう。

 情報システムを扱う学会は多いが、本学会のような情報システムのあるべき姿を志向する視点で情報システムを捉えるところは少ないと思われる。したがって、先にあげた3点はきわめて重要なテーマであり、それを目指して活動することが本学会の使命である。こうした観点から上述した2種類の誤りを早急に正すことが望まれる。同時に学会内でのコミュニケーションの質が一層向上することも強く期待したい。