情報システム学会 メールマガジン 2009.6.25 No.04-03 [8]

連載 著作権と情報システム 第4回

司法書士/駒澤大学  田沼 浩

1.著作物

[2]通産省案「ソフトウェア基盤整備のあり方について
    −ソフトウェアの法的保護の確立を目指して−」(2)

 昭和58年12月当時、通産省(現、経済産業省)の産業構造審議会情報産業部会はどのようなソフトウェアの保護制度の確立を目指すべきなのか。満足させるべき要件として次の事項を掲げている。

(1) 制度の目的・・・ソフトウェア開発者の利益とソフトウェア利用者の利益のバランス
ソフトウェアの権利を明確にして流通と利用の促進を図るため、ソフトウェア開発者の利益とソフトウェア利用者の利益のバランス(利益衡量)をとった制度でなければならない。
(2) 保護の対象・・・プログラム
ソフトウェアは、コンピュータの利用に関するすべてのものであり、ソース・プログラム、オブジェクト・プログラムに止まらず、フローチャート、マニュアル、アイデア、アルゴリズムなども含むものと解されている。そのためプログラム(ソース・プログラム、オブジェクト・プログラム)である「コンピュータにある一定の機能を果たさせるための一連の指令の組み合わせ」を保護の対象とすることが適当であるものとしている。また、保護対象を明確にするため、特に広く慣例的にしかも無償で使用されているプログラム等にまで権利を発生させることは社会的弊害が大きいとして、「権利性の認められないプログラムや権利が放棄されたものとみなされるプログラム」を除外することも考えられている。
(3) 使用権・・・プログラムの使用を専有する権利
経済的価値を有するプログラムの使用を専有する権利(使用権)を新たに創設する。
(4) 改変権・・・既存のプログラムを改変する権利
プログラムは既存のプログラムをバージョンアップするケースは多いが、本中間答申では既存のプログラムを改変して他人がプログラムを作成する場合を想定して改変権を求めている。これは経済財であるプログラム取引の安定を図り、プログラムの権利範囲を明確にするために認めるべきとされている。
(5) その他の(経済財としての)権利・・・貸与権
本中間答申では、使用権や改変権だけでなく貸与権、すなわちプログラムを貸与する権利も考えられていた。また、著作権同様に複製権の設置も想定している。その場合でも、使用権の許諾を得た者が自ら使用する範囲内では複製、改変を認めるものとしている。
(6) 人格権
本中間答申では作成者の人格権を認めていない。プログラムの開発や流通を阻害することが想定されるとして人格権の導入を否定している。
(7) 権利の発生・・・登録を権利発生要因すること
権利の発生は登録のような要式行為が望ましいとしている。ただし、直ちにすべてのプログラムを登録制度に移行させることは難しく、当面はプログラムの作成時に権利が発生することとし、登録制度を導入して将来的に登録を権利発生要因とすることを検討すべきとしている。
(8) 権利期間・・・プログラムの保護期間
プログラムの権利期間をその流通促進から、投資回収を確保できるだけの程度であること、そして当時のアメリカ等がプログラムに相当な長期の保護期間を設定していることからバランスを欠くような短期の保護とした場合、海外の優れたプログラムの流入が阻害されたり、我が国のプログラムが海外で不利になる虞があるとしている。これらのことから、本中間答申は当面の間、長期の保護期間とすることをやむを得ないものとした。また、プログラムにはその流通促進から作成後一定の15年程度まで適正な対価を支払うことを条件に利用できる規定を設けること、また前述の使用権については15年程度の保護期間とすることも考えられていた。

引用・参照文献

・著作権法概説第13版、半田正夫著、法学書院、2007年
・著作権法、中山信弘著、有斐閣、2007年
・ソフトウェアの法的保護(新版)、中山信弘著、有斐閣、1992年
・岩波講座 現代の法10 情報と法、岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編、岩波書店、1997年