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         情報システム学会 メールマガジン
                 2007.7.25 No.02-04

[1] 理事が語る (松平和也)
[2] 第27回理事会報告
[3] 研究会だより
  [3-1]グローバル・アライアンス(GA)研究会活動報告
  [3-2]「情報システムのあり方を考える」会の報告書の配布について
[4] 連載「情報システムの本質に迫る」第2回 (芳賀正憲)
[5] 図書紹介
    甲斐荘正晃著『女子高生ちえの社長日記―これが、カイシャ!?』

<編集委員会からのお願い>
 ISSJメルマガへの会員の皆様からの寄稿をお待ちしています。情報システ
ムの実践,理論などに関するさまざまなご意見をお気軽にお寄せください。
 また,会員組織による人材募集やカンファレンス,セミナー情報,新書の
紹介など,会員の皆様に役立つ情報もお知らせください。
 宛先は−−>メルマガ編集委員会(issj-magazine■issj.net)です。
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[1] 理事が語る「昔昔にこんなことがありました」(その1) 理事 松平和也

 業界では、私は生ける化石“シーラカンス”と言われるようになった。
そこで、私が聞いたり見たりしたことをメモしてみたので気楽にお読みくだ
さい。

1.計算機の一号機と美人のプログラマ伯爵夫人

 与謝野鉄幹作“人を恋うる歌”の一番は“妻を娶らば才長けて、みめ麗し
く情けある”である。昭和二十年代生まれの方々はご存知であろう。この歌
の四番に“嗚呼、われダンテの鬼才無く、バイロン、ハイネの熱なきも”と
続く。放浪の詩人バイロンの娘が計算機に関わりがあるのである。世界最初
の計算機として英国で開発されたデイフャレンスエンジンがそれである。バッ
ベージ博士が1835年ごろ開発に成功した。バッベージ博士への資金提供者が
AugustaAda Byron伯爵婦人なのである。ちなみにバッベージ博士が作った二
号機はアナリテイカル・エンジンと言う名である。
 鉄幹の理想の女性?ADAさんは美人薄命で、三児を遺して37歳で世を去る。
この伯爵婦人のADAというミドル名を取り、後年米国政府はMIL‐STD‐1815:
ADAという言語を1980年に制定した。この言語は米軍関係の複雑極まる
システムのポータビリテイを保証するための米軍各部共通開発言語として標
準化の道具となったのである。実は私はこの標準化を推進していた空軍のジェ
リイウインクラー中佐にADAさんのことを教わったのである。

 ところでADA伯爵夫人は世界最初のプログラマと言われている。この辺
のいきさつを下記しよう。
 聡明な伯爵婦人は1842年にバッベージ博士の講演の講義録を英語に翻訳す
るようバベージ博士本人に依頼されるのである。この講義録を作成したのは
イタリアの若きエンジニア“Luigi Menabrea”(後の伊首相)で、仏語で書
かれていた。ほぼ一年かけてADAは仏国語講義録を英語にしたのである。
 このときの講義録の最終章にベルヌイ数の計算のアルゴリズムをアナリテ
イカル・エンジン向けに表現したのである。この記述があたかもプログラム
を組んだように表現されているという。ここではいくつかの命令は“LOOP”
とか“Sub Routines”において繰り返し処理されると言う概念が見られると
言う。さらに今流に言うGIGO“Gabbage-In, Gabbage-Out”というような記
述もみられる。入力が大事だと言う概念。まさに計算機の機能を的確に表し
ているのである。
 せっかくのプログラムはその時代にはデバッグできず、100年後になって
完全なプログラムであることが証明されたというのである。かくして、ADA
さんは世界初のプログラマと言われるようになったのである。ADAさんの母
親は数学者という。父親が詩人、父親譲りの詩的な言葉の表現方法を駆使し
て、まだ見ぬ計算機の機能を推論してプログラムした論理構成力を兼ね備え
た才女はガンで死ぬ。

2.HERMAN HOLLERITH(1857−1929)とパンチカードと電子計算機の話

 1890年:ホレリスはパンチカードと統計機械を考案した。
 私も若いころ一時的に使ったことがある80欄のカードを“ホレリスカード”
と言っていたのを懐かしく思い出す。ホレリスは1896年にはThe Tabulating
Machine社を設立して社長になった。
 その後会社は1911年にComputing Tabulating Recording社として統合され
た。1914年にIBM社が創立され1915年にはトーマスワトソンシニア
が社長になった。この時期IBM社は肉きり機も造っていた。1933年にはタイ
プライター事業にも進出した。第二次世界大戦中は銃なども製作した。海軍
のためにはHarvard Mark 1という自動デイジタル計算機を開発した。

 1950年代に入ると空軍のためにSAGE防空システムを開発した。これで技術
力を蓄積しAmerican Airline社向けにSABREシステムを開発成功しビジネス
への電子計算機の活用効果の側面を示した。1964年にはIBM/S360を発表し以
降急速に世界の巨人企業になった。しかし、盛者必衰の理のとおり、BIG
BLUEといわれた巨人が1990年代に入ると急速にその力を失う。再建屋ガース
ナーに踊らされ今や“巨象のサービス会社”に変革している。

 以下に電子計算機のショ−トヒストリーを示そう。
 1939年にABC機が米国アイオワ大学にて開発された。かなり本格的な電子
計算機であったという。この後、1943年になって真空管電子計算機:
COLOSSUSの開発が成功する。Alan Turingのチームが開発したのである。真
空管2500本以上を使う機械である。この計算機はドイツ軍の将校とヒット
ラーとの通信を解読するのに役にたった。この傍受は1944年のノルマンデイ
上陸作戦の成功を生んだ。
 1946年2月『ENIAC』をJ. Presper Eckert及びJohn Mauchlyが開発成功。
ペンシルバニア大学にて公開された。
 1950年『EDVAC』をフォン・ノイマンが開発した。このモデルが、電子計
算機の基本構造となる。
 1951年『UNIVAC1』が米国政府機関人口統計局に納入。民間一号機はデュ
ポン社に納入された。この機械もエッカート・モークリー社で開発された。
後年スペリランド社が両人の会社を買収した。私の師匠ミルト・ブライス氏
は自身導入に関わったのがデュポン社に納入された機械であったのである。
 1956年は日本でのエポックであり、『FUJIC』という日本最初の電子計算
機が稼動した。富士フィルム製真空管電子計算機である。富士フィルム社は
レンズ設計用にこれを開発した。この計算機の能力は人間の計算速度の2千
倍であったという。

3.Leslie Matthies(レス・マサヤという)とCOBOLのProcedure Division
の関係

 レスはカリフォルニア大学バークレイ校ジャーナリズム専攻で卒業、不況
で良い職が無くブロードウエイにて台本書きをしていた。やがて太平洋戦争
が始まり、飛行機会社の生産性向上のために飛行機組み立て現場の改善を担
当した。このとき彼の本職“演劇用台本書き”の経験が組み立て作業現場で
生きた。レスの書き方での台本で劇をする役者は動作が実にうまく動けると
いうのである。この台本書き技術が、工場の作業改善技術として『作業準備』
『作業と指示』『名詞と動詞』『IF文の書き方』などなどになったのである。
この技術が『今で言うIE』なのであり、レスの書く現場作業マニュアルの導
入により航空機組み立て作業の生産性改善が進み太平洋の戦場に大量の飛行
機を送り込めたと言う。

 戦後マニュアルの表記法としても台本方式が世界中に使われるようになっ
た。私はマサヤ氏とはブライス氏の会社MBA社で何度も会ったことがある。
“PLAYSCRIPT WRITING”という氏の著書を署名入りで贈呈された。その書
は今は(株)プライドの書庫にある。マサヤ氏は何時も言った。『和也、事務
管理というのは標準化が大事だよ。企業の情報を扱うのでね!』英文では
『Systems & Procedure Department』と表記するのが日本での事務管理部。
また現場の改善は生産技術部『Industrial Engineering Department』が担
当する。
 この時、MILTが言い添えたものである。『世界で最初のオンラインリアル
タイム会話型データベース活用型システムは12世紀にベニスの商人により開
発された“複式簿記”である』と。ここで歴史の証人達が言いたかったこと
は“電子計算機が出現以前からSystemなんて言葉があるのだ”ということ。
“システムノットイコール電子計算機ということ”なのである。常に人間の
所作に着目せよと先人は言う。

4.Robet W. Beamer(ASCIIの父、UNIVACのリーダー)

 ブライス氏はユニバック勤務時代にMr. Beamerから標準化を仕込まれたと
よく言っていたが、二回ほど氏の家のサロンパーテイで会ったことがある。
ボブさんはシステム分野の技術者として優れた業績を残した方で、サロンへ
の出席者の誰にも尊敬されていた。ボブさんはSTANDARDという言葉を耳にた
こができるぐらいいい続けた方だ。サロンの常連のトム・リッチリーはDBMS
として著名なTOTALの開発者。トムとの出会いこそブライス氏の起業独立の
きっかけであったという。ブライス氏は、1971年ごろはUS製靴社のCIOだっ
たが情報関連の事業に興味をもち起業の意思を持ちはじめていた。そして
Champion製紙社向けにトムが開発したTOTALをブライス氏がUS製靴で2号ユー
ザーとして購入した。TOTALを使う中で意気投合したブライス氏とトムとで
TEKFAX社を創業しコンサルをやろうとした。創業して数週間後、たまたま営
業に立ち寄ったB. F. GOODRICH社では“自社のために開発したIDMSの販売権
を渡してもよい”との話もあり、この世界で生きようとブライス氏は決意し
た。結局IDMSの販売権はJ.カリネーン氏に再譲渡され、カリネーンは大成
功し政治家にもなった。

5.PRIDE方法論、世に出る

 ブライス氏はデータの論理的管理方法をPRIDEにて実現した。物理管理は
DBMSに譲ったのである。DBMSが丁度世に出たころでCharlie BachmanはGE社
でIDSを開発した。ブライス氏は頃合いを見て、データベースアプローチを
基本にしたPRIDE方法論の販売を決意したのである。1971年にこれを販売開
始したが事業は容易ではなかった。営業に行くと客に“どんなソフトウエア
なんだ?”と聞かれる。ブライス氏は、いつも以下の様に答えたという。
『最高のコンピュータ:すなわち人間にとって大事なソフトウエアは‐マイ
ンドだ。このマインドを揺り動かす方法論を売ってるんだ』
 このコンセプトを最初に買ったのがMARION POWER SHOVEL社。世界最大の
パワーシャベルを設計製作している会社。その後TENNECO, GE, GMなどが
ユーザーとして続いた。今でも方法論一筋である。PRIDEブライス氏はソフ
トウエアの技術者であるMichaelA Jackson(構造化設計提唱者:英国人)と
は仲良しであった。構造化を理解できる技術人がこのころ交流があった。
 Barry Boehm,Frederick P. Brooks,Larry Constantine,Tom Demarco,
Edsger Dijkstra,Chris Gane,J. Warnier,Gerald M. Weinberg,
Ed Yourdonなどなど。懐かしい名前ばかりだ。皆さんも良くご存知でしょう!

 注1)善知識とは仏教用語で“良い友人”。ミトラともいう。
 注2)Atanosoff Berry Computer
 注3)Electronic Numerical Integrator And Computer
 注4)Electronic Discrete Variable Automatic Computer
 注5)UNIVersal Automatic Computer
 注6)PRofitable Information by DEsign
                          (次号につづく)

html版は http://www.issj.net/mm/mm0204/0204-1-rk-km.html
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[2] 第27回理事会報告(2007.7.21)

議題1 入退会会員の審議
議題2 学会パンフレットの印刷と今後の取り扱い(*)
議題3 日本学術会議協力学術研究団体申し込み
議題4 第4回総会(2008年)の開催に関する専修大学からの協賛
議題5 社会保険庁の年金問題に関する特別プロジェクトの設置の承認
その他、報告事項

   詳細はこちら→ http://www.issj.net/gaiyou/rijikai.html

*学会を紹介するパンフレット(小冊子)の印刷が完了しました。
  ご希望の方は、以下までご連絡ください。
  〒102-0084 東京都千代田区二番町14番地
   日本テレビ麹町ビル西館4階
    株式会社プライド 情報システム学会担当係
     (Tel:03-3239-5431 Fax:03-3239-5432)

 また、「情報システムのあり方を考える」会の『2006年度研究報告書』を
ご希望の方も同じく上記にご連絡ください(詳細は[3-2]に記載)。
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[3] 研究会だより

[3-1]グローバル・アライアンス(GA)研究会活動報告

 前号のメルマガにて、Interop 2007 TokyoにCBA社の出展(カナダ大使館
後援にて)の運びとなったことについて御報告させていただきました。その
後の展開について概要をお伝えしたいとがんが得ております。海外企業とア
ライアンスを計画される際の参考になれば幸いです。

<Interop 2007とその後の展開について>
 カナダ大使館の支援により実現したInterop 2007への出展です。

<<Interop 2007>>
 隣のブースにはNTTドコモとの提携があるBlackberry製品が陳列され、も
う一方には、3D顔認証のバイオスクリプト社(実際にはバイオスクリプト社
が3D顔認証技術のリーディングテクノロジを有するA4社を買収し展開中)の
製品が並んでいました。カナダ大使館後援ブースは、会場では小さなスペー
スながら注目度の高いブースとなりました。

 カナダ大使館は現在カナダ製のソフトウエアを日本で積極的に販売するた
め様々な取り組みを行っています。カナダにとって、日本は、アメリカに次
いで二番目に大きな市場だからです。従来は、Intelのダイアロジック社の
音声ボードなどのハードウェアの輸出が多かったのですが、ダイアロジック
社もIP電話用のインターフェースとしてHMPを位置づけ戦略推進しているた
め、日本へのソフトウエア製品の輸出割合が高まっている傾向があります。

 このような背景の下、CBA社が日本総代理店となったカナダのプロネクサ
ス社の(販売する)VBVoiceは、ダイアロジック社のHMPを使ったテレフォ
ニーシステム、マルチメッセージングシステムなどの開発を行うためのGUI
開発ツールです。今後、大企業だけではなく中小企業を中心に需要が見込め
ることがわかりました。

 Interopの前のカナダ大使館でのラウンドテーブルでは、カナダと取引の
ある企業経営者との会議に参加し、日本でのソフトウエア販売の課題などに
関して話し合いました。
 とりわけ日本市場でソフトを販売するには、ローカライズだけでなく、ど
うしてもカスタマイズが避けられないこと、この点は、欧米のようにカスタ
マイズしないでパッケージソフトをそのまま使用することに抵抗のないユー
ザーと、カスタマイズ志向の日本ユーザーの違いが明確であるとの意見の一
致をみました。

 ブースを展示したことにより、カナダと取引のある日本企業に関心を持っ
ていただいたことに加えカナダのソフトフォーン開発会社などとの横のつな
がりも構築できました。アライアンスがアライアンスを呼ぶような連鎖効果
です。

 Interopにはカナダのプロネクサス本社からの代表者も駆けつけた為、情
報の収集、情報の共有などが円滑に行えました。

 また、代理店契約書のなかに、源泉税に関する処理の仕方についてあらか
じめ含めておいた方が良い点にも気づかされました。

<<Interop後の展開>>
 現在、日本企業のフォローアップをしておりますが、Interopを境に問合
せが急増しています。

 カナダのプロネクサス社のセールスチーム+テクニカルチームと、CBAの
セールスチーム+テクニカルチームは英語でシームレスに連携して、日本の
ユーザーからの質問に対して答えてサポートを行っています。カナダと日本
では時差がありますが、24時間から遅くとも48時間以内にはすべての回答を
行うことが現時点まで実現できています。コミュニケーションが円滑な為、
同じビルの同じフロアーで仕事しているかのような錯覚になるような連携が
実現できています。
                          (主査 槇本健吾)

html版は http://www.issj.net/mm/mm0204/0204-2a-kh-ga.html
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[3-2] 「情報システムのあり方を考える」会の報告書の配布について

 「情報システムのあり方を考える」会の『2006年度研究報告書』(A4版
320頁、無料)を希望者に郵送いたします。ご希望の方は、郵便局の「EXPACK
(エクスパック)」専用封筒(500円)にご住所とお名前をご記入のうえ、
下記あてにお送りください。

   〒102-0084 東京都千代田区二番町14番地
   日本テレビ麹町ビル西館4階
    株式会社プライド
    情報システム学会担当係宛
     (Tel:03-3239-5431 Fax:03-3239-5432)
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[4] 連載「情報システムの本質に迫る」 第2回「IT学者は現場音痴」か?
                             芳賀 正憲

 前月号で、わが国では有識者とされている人々の間でも情報や情報システ
ムの概念がはっきりせず、それどころか少なくとも3つの誤解があることを
述べました。概念とは「事物の本質をとらえる思考の形式」(広辞苑)です。
また、有識者の中には学者が多く含まれているのですから、状況はかなり深
刻です。
 実際、わが国で情報システム産業の厳しさが増すにともない、情報システ
ム関係の学者に対する批判が高まっています。例えば、経団連の部会長・山
下徹氏編著の「高度IT人材育成への提言」には、「大学の教員は、細分化さ
れた専門分野においての高度な理論や知識を教えることには非常に長けてい
ます。しかしながら、実践IT教育には、そういった理論や知識を応用する能
力が重要であり、・・・大学内部での人材を確保することが難しい状況にあ
ります。原因のひとつは、・・・論文数や学術的な研究成果によって教員の
評価がなされるため、そもそも教育に労力を注ぐインセンティブが少ないこ
とです」と書かれています。
 また、北海道大学でトップガン技術者育成講座を推進した嘉数・大場両教
授は、近刊の「ソフトウェアエンジニアリング講座」の「はじめに」で、も
っと端的に、IT関連分野では日本の大学は「国内論文重視主義で現場音痴症
候群」に陥っていると厳しい評価をしています。

 いずれの批判も、現場での応用に役立つ教育が行なわれていないことを指
摘しています。しかし前月号で見たように、基本的な概念が不明確なまま研
究と教育が進められていることを考えると、情報システムに関して日本の大
学は、現場音痴というよりむしろ学問音痴といったほうが適切ではないかと
思われます。学問の成立条件が、概念・歴史・理論・方策(実践の方法論)
の確立にあることは、つとに知られているからです。
 この点に関しては、現場での応用能力ばかり重視する産業界の視点にも問
題があります。ほんとうは産業界も、概念・歴史・理論をしっかり習得した
上で方策を進めなければ、効果的な業務の推進はできないのです。ところが
ギリシャ以来の学問の伝統をもたず、明治になって急いで西欧に追いつこう
としたわが国の産業界は、概念や歴史、基本的な理論まで振り返る余裕がな
く、実学の名のもとに、そのときどきの表面的な方策のみ求めてきた経緯が
あります。前述の嘉数・大場両教授はこのような産業界に対しても、「輸入
依存型の近視眼的国内現場主義」と厳しく批判しています。
 問題は、開国以来140年経った今日、学問の府である大学まで、同じよう
な思考パターンを続けているところにあります。経団連の高度IT人材育成
部会の提案に対して「大学の教育現場からの意見で、もっとも多かったのは、
・・・「大学ではどういった知識・スキルを教えればよいのか」を、具体的
に示して欲しいといったもの」でした(前掲書)。近視眼的な現場に質問し
たのでは、近視眼的な答えしか返ってこない可能性が大ですが、自分も近視
眼であるため、そのことが分からなかったのでしょう。

 それでは、真に人間社会のために役立つ情報システム学を、私たちはどの
ように組み立てていったらよいのでしょうか。これに対しては、21世紀を
迎えた時点で、日本学術会議がエネルギー学を創出していこうとしたアプロ
ーチが参考になります。
 学術会議がエネルギー学の創出を企図したのは、周知のように途上国の経
済成長や人口の増加で今後エネルギーの危機が予測され、それに温暖化の問
題も重なってきている、しかし従来、エネルギーは自然科学、工学、社会科
学など多様な領域で別々に取り扱われてきていて、例えば物理学でエネルギ
ー保存則は基本であるが経済学では保存則が成り立つわけがないなど矛盾が
ある、そこで多分野の叡智を結集して、人間にとって総合的にエネルギー問
題の解決が可能な一つの学を創出しようとしたのです。
 2000年3月には各界の権威者を集め、「エネルギー学を考える」講演
会が開かれました(「学術会議叢書4」参照)。
 この会では、当時学術会議会長だった吉川弘之氏が、諸科学を統合的・俯
瞰的に見ることを提唱したのに対して、哲学者の今道友信氏がそれを卓見と
して認めながらも「基本の基底と目的とを結ぶ軸で考える」べきことを主張
されました。ちなみにエネルギー学の英語名はEnergeticaと決定されたので
すが、これは今道氏が、エネルギー学が実は17世紀すでに存在していたと
して紹介された文献名にもとづきます。同時に今道氏は、エネルギーの語源
が、ギリシャ哲学の現実態にあることに言及されました。
 ゲノム研究で著名な物理学者の和田昭允氏は、エネルギー学をPan
Academic Study(汎学術分野)と位置づけた上で、ボーア・湯川秀樹がもっ
ていた基礎研究へのインセンティブ、エジソン・豊田佐吉がもっていた応用
研究へのインセンティブに対して、パスツールや鈴木梅太郎は両方にインセ
ンティブをもっていたとして、エネルギー学など汎学術分野では、それらの
いずれの方向にもインセンティブが必要であるとされました。
 また社会学者の吉田民人氏は、人類が構築してきた人工物システム全体
(換言するとライフスタイル)にフィードバックがかかるループとしてエネ
ルギー学を考えるよう述べられました。
 同年学術会議の委員会が出した「エネルギー学の確立を目指して」という
報告書に次の一節があります。
「エネルギー学においては、長期的で幅広い視点から問題を設定して解析す
ることが特徴であり、そのためには各学問分野に対して横断的に適用できる
基礎概念の構築が重要である。このためには、・・・学問に関する学問であ
る哲学が重要な基盤となる。
 ここで重要な参考となるのは、プログラム科学と名づけられた新しい科学
観である。人間にとっての価値を中心概念としてエネルギーの諸問題を取り
扱うエネルギー学においては、現象を理解する認識科学と共に、あるべき価
値観を創造するという設計科学の視点を重視する必要がある。人工物の秩序
原理は法則ではなくプログラムであるとするプログラム科学の考え方は、人
工物システム科学としてのエネルギー学の基盤になり得るものと考えられ
る。」
 前半に関しては今道氏、後半には吉田民人氏の以前からの主張が反映され
ています。
 私たちも、情報システム学をPan Academic Studyとして構築していかなけ
ればならないことは明らかです。そのためにはエネルギー学と同様、すぐれ
た哲学者や社会学者の知見にも学びながら、基底から目的に至るループを組
み立てていく必要があります。そしてそれこそが、学会として産業界のニー
ズに真の意味で応える道筋になると思われます。

 この連載では、情報と情報システムの本質に関わるトピックを取り上げて
いきます。皆様からもご意見を頂ければ幸いです。

html版は http://www.issj.net/mm/mm0204/0204-4-jhnst02.html
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[5] 図書紹介「女子高生ちえの社長日記−これが、カイシャ−」
       甲斐荘正晃著 231頁 定価1,200円(税込み)
       プレジデント社,2007年6月刊

 著者の甲斐荘氏によれば『本書は女子高生の視点を借りた小説仕立てとす
ることで、従来の「用語解説」的な断片的な解説では理解しにくい「会社で
の仕事に必要な基礎知識」を、ストーリーの中でその適用場面と共に示すこ
とで実感を持って理解できるように工夫した「ケーススタディ・ビジネスノ
ベルズ」という新しい試みです』とのことです。
 以下に、著者に当書籍に関して寄稿していただいた全文を掲載します。
(本書の目次を最後に記載しています。)
=================================================
 新卒学生の方の3割以上が入社3年以内に離職しているとよく報道されます
が、小生が業としております企業のコンサルティング活動の中でも、若手社
員を育てていこうという職場の雰囲気が、年々希薄化していることを痛感し
ております。その背景には、近年多くの企業で導入された成果主義が、未消
化な形で運用されていることも一因ではないかと思います。情報システム学
会の対象となる情報システム要員も例外ではないと思います。そんな中で新
人の社会人の方が良いキャリアを積み上げていくために、少しでも役に立つ
情報を提供できないかと考え、本書の執筆に至りました。

 学生生活に別れを告げ、ビジネスマンになられる方にとって「会社の中で
は、実際はどんな会話がされているのだろうか」「自分が配属される部署は、
会社全体の中でどんな位置づけにあるのだろう」「自分がビジネスマンとし
てのキャリアを積んでいくために、入社後どんな意識で仕事に向かうべきな
のだろうか」など、様々な疑問と不安を持たれていることと思います。
 仕事のマナーや業種解説などの書籍は豊富に出版されていますが、現場経
験のない学生の方が、職場での慣れない用語を事前に習得することができる
書籍は皆無です。本書は女子高生の視点を借りた小説仕立てとすることで、
従来の「用語解説」的な断片的な解説では理解しにくい「会社での仕事に必
要な基礎知識」を、ストーリーの中でその適用場面と共に示すことで実感を
持って理解できるように工夫した「ケーススタディ・ビジネスノベルズ」と
いう新しい試みです。仕事に必要な用語の理解だけではなく、社会人として
の成長に欠かせない職場でのコミュニケーションの重要性も感じていただけ
ると思います。

 今回は特に製造業を舞台に、「モノづくり」の現場に入る新人の方に欠か
せない最低限の基礎知識を習得して頂けるようにしましたが、製造業の方だ
けでなく、社内の情報システム部門の方や、情報サービス提供企業で製造業
を担当される方が、仕事で恥をかかないための「豆知識集」としても活用頂
けると思います。
 また、本と連動して若手社員を応援するサイト(http://www.wanta.jp/)を
用意し、追加の質問にも対応できる様にしております。
 明日の日本企業を支える新人・若手社員はカイシャの宝です。本書が、そ
の様な方たちの職場での成長に、少しでもお役に立てばと願っております。
                            (甲斐荘正晃)

<本書の目次>
プロローグ なんで私が社長日記なの?
 第1話 傷んだキャベツも捨てちゃいけない理由
 第2話:ネコしか知らない現場情報
 第3話:工場と営業、悪いのはどっち?
 第4話:予想が当たれば競馬もケーキ屋も大儲け
 第5話:ピッキングって空巣狙いの仕事?
 第6話:先に売り切れるおにぎりはタラコと昆布どっち?
 第7話:雨降って地固まるって言うけれど
 第8話:会社でも三者面談がいるかしら
 第9話:お買い物の知恵は家庭も会社も同じ
 第10話:会社の中も特急が走っているのね
 第11話:子供っぽい手にはだまされない
 第12話:JITとカンバン勉強しとこうね
 第13話:工場って躾も教えてくれるところ
 第14話:売れないモノを作ってしまうのはなぜ?
 第15話:フリマはアイデアの宝庫
 第16話:「オカメ・ハチモク」って聞いたことある?
 第17話:赤貝を切らすとヒモキュウは作れません
 第18話:おいしいリンゴを作るのはだれ?
 第19話:社訓って、古くて新しい
 エピローグ:ブランドって社員が創るもの

html版は http://www.issj.net/mm/mm0204/0204-5-bk-mk.html
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 編集長:砂田 薫,副編集長:吉舗紀子
 編集委員:上野南海雄,小林義人,杉野 隆,芳賀正憲,
      堀内 一(五十音順)
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