情報システム学会 メールマガジン 2013.10.25 No.08-07 [11]

理事が語る
浦先生の思い出

理事 篠沢佳久(慶應義塾大学理工学部 管理工学科)

 本年度,5月より理事のお役目を拝命しました篠沢佳久と申します.どうぞよろしくお願い致します.自分は,パターン認識,ニューラルネットワークなどを専門分野としておりますが,現在,石井先生の下,学会誌編集委員会にて勉強させていただいております.この記事を書かせていただくことにあたり,内容につきまして,いくつか考えたのですが,学会員の皆様の共通の話題でもあります浦昭二先生について述べさせていただくことに致しました.ただし自分は,浦先生の研究室に所属していたわけではなく,特に懇意にしていただいたというわけでもありません.ただ今,浦先生の追悼集の執筆が,学会員の皆様のご協力の下,進められておりますが,当時,浦先生が教鞭をとっておられました慶應義塾大学理工学部管理工学科の一学生としての立場から見た浦先生の印象とみて,以下お読みいただければと思います.
 自分が当時,履修しておりました浦先生の講義は,「情報処理同実習」(学部2年生後期),「数値処理」(学部3年生前期),アルゴリズム論(学部3年生後期)の3科目でした.「情報処理同実習」はプログラミング(Fortran)の講義でした.現在もそうですが,大学のプログラミングの講義ですと,毎回のように課題が出されます.当時大学の計算機センターにあったコンピュータは大型計算機(FACOM)であり,自分たち学生は,使いづらいエディタ,コンパイルや印刷をするために意味の分からないJCLを入力しながら四苦八苦していたのを記憶しております.教科書としては,浦先生の「FORTRAN77入門」を用いておりました.この本につきましては,プログラム,数値計算,アルゴリズムの記載のバランスがとれた本だと思っており,現在自分が担当しているプログラミングの講義の中でも,この本から例題として利用させていただいているものもあり,今でも手元に置いてある本の中の一冊でもあります.
 「数値処理」は,大学の講義の中で最も自分が好きな科目の一つで,数値微分,数値積分,補間など教わった手法を,講義後プログラミングしていた記憶があります.またこの講義は,一時限目の講義ということもあり,履修者が少なかったため,分からないことがありますと浦先生にしばしば質問しておりました.自分としては,これが個人的に浦先生とお話ししました唯一の機会となります.
 現在,講義において自分は,プレゼンテーションソフトとプロジェクターを使い,ほとんど板書することなどありません.当時OHPを利用されている先生もいらっしゃいましたが,浦先生は,毎回,手書きの講義録を片手に黒板にびっしりと板書されながら説明されていました.特に「アルゴリズム論」のような講義においては,アルゴリズムを説明する上で,状態が遷移する流れを図示しながら説明しなければなりませんが,ソーティングのような問題に対しても,浦先生は丁寧にその動きを逐次黒板に板書しながら,説明されていたのを特に記憶に残っております.
 浦先生につきまして,後程いろいろな方からは,非常に厳格な方とお聞き致しますが,当時の自分たち学生からは,非常にお優しい方との印象を持ちました.講義中,失礼にも自分たちがざわざわし始めると,悲しそうな表情をされ,押し黙られてしまったり,教室の一番後ろに座っている学生から順に質問をされるといったことが印象に残っております.
 浦先生は,自分が研究室に配属が決まる前(4年生になる前)に慶應義塾を退職されましたが,最後に浦先生や他の先生方の研究室の卒業論文審査会を聞きに行った時の印象が強く残っております.当時の自分では,先輩方の研究内容は難しいものばかりでしたが,その発表や先生方との質疑応答を興味深く聞いておりました.審査会の終了後,卒論の総括があり,各先生から一言ずつ意見が述べられました.最後に浦先生が所見を求められた時,浦先生は「それぞれの先生方から意見がありましたので,最後に拍手をして終わりましょう」とおっしゃり,和やかに全員で拍手をして審査会を終了したのを記憶しております.特にこの一言は,自分にとって強く印象に残っており,浦先生のお人柄をしのばせるものかと思っております.自分にとっては,浦先生につきましては,一年半の思い出ではありますが,教育者であり人格者であるとの印象が強く残っております.
 最後になりますが,浦先生の創立されました情報システム学会の発展のため,貢献して行きたいと考えております.今後ともどうぞよろしくお願い致します.