情報システム学会 メールマガジン 2012.9.25 No.07-07 [10]

新刊紹介『モノから情報へ―価値大転換社会の到来』

佐藤典司著 経済産業調査会 2012年8月刊 2,500円(+税)

 「どうも商品が売れない」「会社で自分の能力が、じゅうぶん発揮できていないような気がする」「昔と違って、社会全体の仕組みが、まったく変わって来ているのではないか?」、こうした疑問や悩みに答えるのが本書である。その答えとは、『モノから情報へ』と、世の中が大変化を起こしているからだ、というのが筆者の考えである。
 もちろん、情報社会という言葉なら誰でも知っているように、携帯電話やインターネットをはじめ、すでに私たちの身近なところだ。しかし、筆者に言わせれば、これはツールとしての情報を理解し、活用しているに過ぎない。そうではなく、現代は、生産され、利用され、私たちを取り巻いている社会のありとあらゆるものが、モノから情報へと大きくシフトしているのであり、また、そうした社会を動かしている仕組みそのものが、モノの原理原則から、情報の原理原則で動き始めている、というのが筆者の考えである。
 例えば、今、企業が作っている商品自体が、情報の価値の塊となりつつある。家電製品やクルマは一見、モノに見えるが、その商品デザインやブランド力、広告で付加されたイメージなど、実際は、モノに付加された情報の価値で大きく売れ行きが左右されるのが、今日である。さらに、これがファッション製品や映画、ゲーム、メディア世界の商品となれば、それらに占める情報の価値の割合はぐんと高まる。
 おそらく、そうした目で、もう一度自分たちの身のまわりを見渡せば、私たちの社会のその多くの部分が、情報の価値で作り上げられているかに気づくことだろう。また、その結果として、企業経営の仕方や、私たちの仕事ぶり、また、生活そのものが、モノの仕組みから情報の仕組み社会へと移りつつあることに気づくはずである。
 しかも、そうした情報の性格は、これまでのモノの世界のそれとは一八0度違うのである。例えば、モノの価値は誰にでも、その使い勝手が同じところの絶対価値だが、情報は、それを受け止める人によってまったく価値の異なる相対価値である。これはほんの一例だが、こうした情報のもつ原理原則を知らずして、これからの仕事や企業経営、ひいては人生の送り方がうまくいくはずがない。
 本書では、そのあたりの情報とモノのもつ本来的な性格の違い、モノ社会から情報社会へ移り変わりつつある状況、また、そうした情報社会を生き抜いていくためのノウハウなどを、わかりやすく解説してゆく。

著者紹介 立命館大学経営学部 教授 佐藤典司

目次:

I 情報価値社会の到来
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グーグル、フェイスブックの本質−情報価値誕生のしくみ
電子書籍の衝撃−情報に客観的価値は内在しない
モノから情報へ−大転換する社会の価値構造
ブランドパワーも情報の価値
衰退していく「情報価値をないがしろにする社会」
クリエイティブ力とは何か
「モノからこころへ」の時代の意味するもの
四次産業は「情報」の形で価値を残す
増大する商品の情報性
社会全体がモノから情報の価値へ
なぜ、情報性が高くなるのか
情報化と生物発生のしくみ

II 情報価値の特徴
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情報とは何か
絵のコップに水が注げないわけ〜情報はその機能を表現化・記号化・パターン化できる
情報は手段から目的へ
ガストン・シェサックの悩み〜情報は差異から生まれる
同じ社員は二人要らない
情報価値社会は相対価値社会(1)〜情報は受け手によって価値が異なる
情報価値社会は相対価値社会(2)〜情報はまわりの環境によっても価値が異なってくる
なぜ、京都が人気なのか
ルール化された情報、そうでない情報
見えないルール化
情報価値と社会主観
DOGとGOD〜情報の価値は関係性から創造される
価値は所有するものから、知るもの、感じるものへ
知識と情報
知識社会は情報の性格で説明できる
モノと情報はこんなに違う

III 崩壊する旧社会の仕組みと法則
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漂う日本社会の閉塞感
働き方がわからない
拡大する生産性格差
激変した企業社会
効率主義社会の終焉
情報価値と価格.限られる市場範囲
価値に大きく影響を与える情報価格
情報価格は決まらない
資本主義社会から権利主義社会へ

IV こうすればうまくいく、情報価値社会のビジネス対応
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コストゼロ時代のビジネス.情報でお金がとれないわけ
「どう作るか」から「何を作るか」へ
観察・発見・創造
仮説なき観察
「デザイン思考」―ビジネスの基本はトライ&エラー
情報価値創造にエンドはない
情報価値ビジネスのカギをにぎるのは評価者
環境創造型マーケティング.リスク回避の仕組みづくり
資格・権威・実績
仕事は量から質へ、本当の理由
今日の仕事は、明日のためにある
プレゼンテーションの時代
情報価値社会の組織
組織中心からキーマン中心へ

V 情報価値社会を生き抜く個人的ノウハウ
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新入社員が三年で会社を辞める理由
基礎教育は共通ルールの習得
継続学習の重要性
情報社会と教養
射程距離を長くせよ
情報はすぐに消えて行く
情報は見えない、聞こえない
観察・発見のコツは問題意識
情報の価値は多数決からは生まれない
情報発信の重要性
情報と行動

VI 情報価値社会のこれからと日本の進むべき道
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本格的質社会の到来
評価力が決め手となる情報価値社会
マクロ社会からミクロ社会へ
都市もモノから情報へ
二十四時間の壁
情報価値社会は時間消費の時代
文明から文化の時代へ
経済成長と幸福
GDPプラス情報価値で測る時代へ

以上