情報システム学会 メールマガジン 2010.2.25 No.04-12 [10]

評議員からのひとこと
「情報システムと情報システム学」

株式会社富士通ディフェンスシステムエンジニアリング 川野喜一

 大げさな表題にしてしまいましたが、これまでの自分の経験を省みて、情報システムの構築・運用に携わる実践者としての立ち場から思うところを若干メモします。

 数理計画システムの開発グループで社会人生活をスタートしたあと、防衛システム(災害やテロなどの脅威から国土や国民の生活・安全を守るためのシステムで我々の生活にとって欠くことのできない重要な社会基盤です)の研究・試作、開発・システムインテグレーション・運用支援、事業企画、事業計画・管理などに従事して30年余りになります。
 この間、開発SE、フィールドSE、SI、PM、研究職、企画管理と、いろいろな部門や立場で、担当者とチームリーダ、担当と管理職、開発部門とフィールド、研究所と事業部(技術とビジネス)、企画提案(プレ)と実践(アフタ)、管理(品質・技術・コスト)と現場、SIとプログラマ、SIベンダとソフトハウス、本社とグループ会社など、いろいろな「と」を経験してきました。お客様とも、EDP部門、運用者、経営幹部、経営企画部門などと、これもいろいろな「と」がありました。
 相手に喜んで貰えたプロジェクトや苦労したプロジェクトを自分でも経験し、また見てきました。苦労したケースはこの「と」がandやversusの関係だったなと反省しきりです。上手くいったケースはandやversusではなく、相手の目線でコンテクストの理解と共有(もちろん日本的な理解ではなく、しっかり記述できることが必須です)が不十分ながらもできていた、withの関係であったと思います。

 このように情報システムの企画・構築・運用・評価の実践に携わってきましたが、商品としての情報システムが、プロダクトからシステムへ、システムからサービスへ、サービスからコンテンツへと変遷するにつれて、ようやく、学会の設立趣意書にある「情報システムが単にコンピュータを中心にした技術的なシステムではなく、人や組織、社会の活動を中心にしたシステムであること」、「単に情報技術の効率的な利用を狙うだけではなく,人間の情報行動の理解に立脚すること」が徐々に認識されてきた感があります。
 筆者の属する企業グループでも、「人とプロセスとITを見える化し、人の意識・行動・プロセスの改善と最適なIT適用の継続的な繰り返しで、お客様のビジネスの革新に貢献し、併せて自らを革新する(フィールド・イノベーション)」ことをグループの方向性の一つに謳っています。

 しかしながら、情報システムの企画・構築・運用・評価を実践をとおして「知識や技術を体系化していく」ことについてはどうでしょうか。
 93年に会社の先輩に連れられてHIS(Human oriented Information Systems)研究会に参加したのが本学会との縁の始まりですが、浦先生から「実務の経験を整理してみなさい」とご指導をいただきながら、その宿題を果たせずにいる自分自身を振り返っても、実践者は勉強の努力不足もあって、得てして体系化や考察が不得意ですし、また時間に追われてその余裕も無いのが実情です。また「横断的・総合的な価値基準のもとに概念的枠組みあるいは社会的影響について考察する」ことについては大変ハードルが高く感じられます。

 もちろん実践者に体系化の要求が無いわけではありません。開発の実務経験や匠の技を、背中を見て学び取る世界から、経験や技を体系化して蓄積、継承し、改善を図る世界に変える努力を行ってきています。情報システムの構築や活用の方法論を、開発または導入し、実践と改善を続けて成功している例が沢山あるものの(沢山ありそうなものの)、情報と情報システムそのものが差別化や競争力の源泉であるため、具体的な実践例として公開されにくい事情にあります。失敗例はなおさら公開されません。
 研究者を実践現場に直接招き入れて成果を上げている例もありますが、非公開の制約を考慮すると、成功例や失敗例を具体的な形ではなく凡化した形で、ただし要点は削らない形で研究者にフィードバックしやすくするための分析モデルや体系化のフレームワークなどの知見の提供などの支援があると、実践者にとって大変ありがたく、また不可欠だと思います。

 以上勝手なことを申し上げましたが、今後、特に若手の実践者や研究者の参加を推進するためにも、実践者と研究者双方の参加者が成果をあげることができる方法や場の改善など、情報システムと情報システム学とがさらにwithの関係になるよう、実践者として貢献できればと思っております。