情報システム学会 メールマガジン 2009.3.25 No.03-12 [4]

会員コラム  「モバイルソリューション市場の最新情報と方向性」

株式会社アイ・ブロードキャスト 代表取締役 上田 拓右

 当社はモバイル向け画像、動画像、Flashの配信プラットフォーム・ソフトウェアの開発・販売をしているソフトウェアメーカーです。この度は情報システム学会の趣とは違うかもしれませんが、当社のビジネスドメインであるモバイルソリューション市場での最新情報や、その方向性などを紹介させていただきます。

 皆様ご存じの通り、1999年2月にNTTドコモがiモードサービスを開始し、携帯電話ユーザー人口が急速に拡大し、各ケイタイユーザーがインターネットのメールアドレスを所有することでモバイル(移動通信ディバイス)による情報取得が簡単に行えるようになり、電子メールでのやり取りなしには通常の生活ができない状況まで普及してきました。

 また、2001年10月にはNTTドコモがFOMA(第三世代通信網、以下3G )サービスが開始され、さらに各キャリアも3Gサービスを開始、より大量の情報が配信されるようになり、通話がメインであった携帯電話から、カメラ付きケイタイに始まり、iアプリ、ワンセグ、おサイフケイタイ、GPS、動画再生など様々な機能による生活密着型のディバイスに進化しております。

 特にSuica、PASUMO、iDなどの電子マネーの普及により、JR、地下鉄、バス、タクシー、コンビニなど様々な場所での利用が可能となり、Suica+PASUMOは2008年8月時点で月間利用件数3000万件を超え、モバイルSuica会員人口も増加、200万人を超える勢いです。

 世界最高のモバイル環境を持つ我が国日本は、ケイタイ普及率90.5%、1億1千万台
 のユーザーがおり、その約50%の5000万人がパケット定額制による膨大な情報のやりとりを日々行っている状況です。

 しかし、NTTドコモが独自路線での世界戦略としてだしたPDC規格が全く受け入れられず、世界の携帯端末メーカーの世界市場シェアは、ノキア、サムソン、モトローラ、LG、ソニーエリクソンの5社で世界の82%ほどあり、日本の携帯端末メーカーがすべて集まっても9%しかない状況です。また世界の携帯電話加入者数は32億人(2008年末)と世界人口の50%と急速に普及しております。しかし、そのほとんどは音声通話がメインの第2世代(以下2G)携帯電話に過ぎず、逆に2Gが普及してしまったために3Gへの移行が遅れている現状です。

 このような環境下で日本のケイタイ及び周辺技術、サービスがグローバルスタンダードを獲るには、単純に通信規格を統一するといった単純なものでなく、現在、稼働している世界最高峰のサービスそのものを輸出することだと考えております。

 親指を高速に動かし端末から通信や情報発信をする人種(親指族)は特にアジア圏に多く、日本は中国にその巨大な市場を求めるべく各キャリア、各企業一丸とり連合を組み市場開拓のための施策をする必要があると思います。

 中国の携帯電話人口は6億人を超えておりますが、ほぼすべてが2G通信網であり、2008年北京オリンピック前に開始した3GサービスはTDS-CDMAという中国独自通信仕様であったため日本および各国が進出するには時期早々と判断、ゆえに一部都市(北京、上海、広州)で開始しましたが全く人口が伸びていない状況です。

 また中国では、無料で利用できるSMS(Short Message Service)が普及したために、逆に3Gの持ち味であるインターネットと接続してのパケット通信料がかかるメールの普及に歯止めがかかっていると考えられます。
 さらに2008年10月にMobileChinaEXPO@南京でのインターネット協会会長の話によれば、2009年から3年間、2Gの農村地でのアンテナ基地局設備投資に1兆5千億円を投じるとのことで、さらに2Gユーザーの拡大を目指しているようです。

 日本でも2Gサービスを完全に終了させるのに約10年かかっているのに、これから基地局建設をするとなると、中国のモバイル市場が2Gから3Gに移行するにはさらに5年以上、完全な意向は10〜15年でも無理であろうと思われ、想定より相当に遅い動きです。

 しかし、中国市場6億人ユーザーをターゲットにするというより、3Gは中国富裕層1億人と考えるべきで、かつ北京、上海などの一部都市での利用がメインと考えれば、日本と同等規模(1億人規模)のマーケットが非常に近い国に存在するわけで、この市場に日本で創られたシステムが稼働することになれば世界No.1の情報システム基盤が出来上がる訳です。

 モバイルという切り口から日本企業が連合し、アジアでの統一システムを提案することですでに飽和状態になっている日本市場から早く脱却し、各国と手を組み、そのNo.1モバイルシステムを輸出し初めてモバイルに携わる企業が勝ち残っていけるのではないでしょうか。経済不況の中ではありますが、目先の日本国内での市場成長や熟成を論じるより、早く海外へ目を向け戦っていく必要があると思います。