情報システム学会 メールマガジン 2008.7.25 No.03-4 [1]

理事が語る

理事 乾 昌弘

 オージス総研の乾と申します。4月より理事をさせていただいております。
よろしく御願いします。最近はグリーンITが話題になるなど、情報システムの専門家にとっても環境問題は無視できないテーマになってきたと思われます。それに関連して自分の経験談を書いてみます。

 私は、2003年8月より約3年間オージス総研を離れ、エネルギー関係の財団法人に出向した。財団法人は昨今、世間から非難を浴びる組織になってきたが、私が出向した財団法人は、比較的まともだった印象がある。
 2004年度より、経産省からの委託で長期エネルギービジョン(2100年までのロードマップ)を作成することになり、私は運輸部門の事務局として参加した。世界の資源制約(例:2050年に石油、2100年に天然ガスの生産量がピークを迎える)や世界の環境制約を仮定して、2100年に必要な技術スペックを決めて、バックキャストでロードマップを作成した。ソフトウェア産業に携わったものにすれば、2100年など夢物語である。IT関係では、5年先のロードマップを作るのがせいぜいであろう。事実、エネルギー関係企業の委員からでさえ2100年よりも2020年までのロードマップを充実してほしいという要望が出された。私にとっては、仕事は忙しかったが時間はゆっくり動いているように思えた。
 ところで、作成の際に将来のエネルギー需要は、GDPに比例して変動するという仮定をおいている。例えば、自動車の場合は人×Km及びトン×KmがGDPに比例しているという単純な前提で計算をしており、このため、将来需要の調査は特に実施しなかった。従って、最近話題になった自動車の保有台数の予測や道路特定財源などとは直接関係してこない。しかし、自動車の場合は、道路も必要かもしれないがハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車、車体軽量化などに取り組むことも非常に大事である。このことは、結果的に輸出にも寄与する。その一方で、トラック貨物を鉄道貨物に移していくモーダルシフトも提唱されている。

 ロードマップに話をもどしてみよう。ロードマップは、(1)2100年、(2)2070年、(3)2050年、(4)2030年を区切りとして作成された。バックキャストで作成していくと、現在〜2030年の領域が最後になる。前述した資源制約や種々の仮定によって、これから技術開発する内容が大きく変わるのである。より正確にいうと優先順位が変わってしまうのである。なぜなら、性能、車種、台数を(1)(2)(3)の順で決めるため、その延長線上で(4)が決まってしまうからである。このプロジェクトより以前は、2030年までのロードマップがあり、それに基づいて政策が決められていた。実際、2030年付近を作成していたときに、以前のロードマップとの間で不整合が生じて激しい議論があったというふうに記憶している。2100年など夢物語と思っていたが、すぐに直面する話題になり、なるほどねらいはそう(政策変更?)だったのか、とも感じた。とにかく、ステイクホルダーは結果的に、その部分だけに熱い視線を注いだ。

 いまやエネルギー資源の状況が、ITに及ぼす影響は非常に大きい。投機マネーが直接の原因であるが、そもそも地球表面付近の資源が限られているということが、最近の原油及び天然ガス価格の高騰に繋がっている。グリーンITは言うに及ばず、省エネに対する待ったなしの対策が迫られている。価格高騰が劇的な省エネに繋がり、CO2削減に役立てばよいのだが。