情報システム学会 メールマガジン 2007.10.25 No.02-7 [1]

「理事が語る」

山本 喜一

 本年度から松平理事とともに渉外担当及び竹並副会長のもとで東京の事務局を担当しております。慶應義塾大学理工学部情報工学科が本務校で,学生のときからさまざまなソフトウェアシステムを作ったり,シミュレーションやインタフェースの研究を続けています。本日は,研究や学会とは直接関係無いのですが,最近感じた事柄について書いてみます。雑談だと思ってお気軽にお読みください。

 10月8日から13日までISO/IEC JTC1 SC7/WG2の国際会議で米国オハイオ州のクリーブランドに行ってきました。日本でもニュースが流れていましたが,高校生が学校で銃を乱射して数人に重傷を負わせ自殺した事件があったところです。飛行機がなかなか取れずホテルの予約が遅れたところ,メジャーリーグのヤンキースとインディアンズのプレーオフの試合がクリーブランドで行われることになり,今度はホテルが一杯で直前まで予約ができずに大変でした。ご存知の方もいらっしゃると思いますが,クリーブランドは落ち着いた静かな町で,Rock & Roll MuseumやHard Rock Cafeという有名なレストランがあります。たまたま滞在したホテルがこの事件の高校から数ブロックしか離れておらず,誰でもが銃を持てる米国社会の怖さを実感しました。この会議は,国際規格を審議しているISOとIECが情報技術については共同で作業するために設立したJTC1(Joint Technical Committee 1)の中で,ソフトウェア技術に関する事柄を審議しているSC7(Sub Committee)のWG2(Working Group 2)でドキュメンテーションの規格を審議しています。ISO 9000シリーズや14000シリーズ,ISO/IEC 20000などの規格を利用されている方も多いと思いますが,国際規格やJIS規格の話は別の機会に致します。

 この会議の間,急ぎの仕事があって大学の同僚とメールでやり取りしながら米国と日本で作業をしました。以前に,米国のソフトウェア開発会社がインドの会社と共同開発をすると,時差の関係で開発効率が倍になるという話を聞きましたが,13時間の時差があるので正に一日が48時間になったような感じで作業を進めることができ,国際協調によるソフトウェア開発の効率化を実感しました。

 私の泊まったホテルでも会議を開催したホテルでも,ホテルの無線LANが無料で使い放題でとても快適でした。一方のホテルは,無線LANに接続するときの認証も何もなく,私のノートPCのように接続可能な無線LANを見つけると自動的に接続する設定にしてあると,何もしなくてもInterNetに接続して使えました。もう一方のホテルでは,さすがにWebにアクセスすると認証画面が出てくるようになっていましたが,ユーザIDもパスワードもなしてそのまま使えました。日本では,無線LANの場合には無線がどこまで届いているのかも分からないし,どこの誰とも分からない人が入り込んでは困るので,ユーザIDとパスワードによる認証やMACアドレスによる認証などでアクセス制限をかけ,通信は暗号化するのが普通ですが,そんなことはまったく考えていませんでした。これらのホテルが特殊かというとそうでもなく,NewArk空港のターミナルでも同様でした。

 米国での無線LANがどこでもこんな状態だというわけではないのですが,一般にかなりオープンに利用しているように感じます。それに対してヨーロッパ諸国では日本と同様にかなり厳重に制限をつけています。特に,空港やホテルなど公共の場所では,無線LANへの接続は時間単位で課金される有料接続が一般的で,前もって使用時間分の料金をクレジットカードで支払う形式が普通です。1時間あたりの料金は結構高いのですが,1日,3日,1週間となるに従って単価が下がる仕組みです。それでも1週間では結構な値段になります。アメリカとヨーロッパでInterNetの普及状況の違いがまだあるからかもしれませんが,InterNetへのアクセスの態度がかなり違うという印象です。

 メールをめぐる状況でここ2年ほどで大きく変わってきているのが,従来のPOPとSMTPを使ったメールシステムの制限がどんどんきつくなり,いわゆるWebメールが拡がっている傾向が強くなっていることです。POPのメールはスパムメール対策のために,多くのサーバでSMTPのポートを閉じていて,メールを読めるけれども外部からは発信できなくなっています。一方WebメールはHTTPのプロトコルが通れば使えるので,ほとんどすべての場所で使えることになります。Webメールは,HTMLの文書なのでウィルスやワームの危険も大きいのですが,一般ユーザにとってはどこででも仕えるという利便性のほうが大きいのでしょう。

 スパムメールやウィルス,ワームなどInterNetの負の側面が次第に拡がり,ユビキタスコンピューティングの前途に暗雲がかかっているように思えます。情報システムとして考えると現在のInterNetは,完全でないことは明らかですがそれでもまだまだ利便性が勝っていると思います。これからは,負の側面を押さえ込み,本当に便利で有用なシステムとなるように,さまざまな分野で努力しなければならないと思います。