一般社団法人 情報システム学会
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情報システム
情報システムの定義
著者:佐藤 敬
 
 情報システムについてはこれまで識者によってさまざまな定義がなされているので,そのいくつかを以下に示す。まず,B.C.Vikeryは「情報を伝送あるいは変形することを目的とするシステム」と簡潔に定義している。また,A.Demonsと A.G.Larsonは「人間,機械(ハードウエアや装置類),および手続きによって形成される環境であって,これらを統合することによりさまざまな立場の個人に,日々の活動の中で遭遇する(データや知識の)入力あるいは(決断や質問の)要求を可能ならしめるもの」と定義している。これら2つの定義では必ずしもコンピュータの存在を前提としていない。
 情報システムにとってコンピュータが必須のものでないという立場をより鮮明にした考え方に,イギリスのR.A.Buckinghamらが情報システムのカリキュラムを検討した際に前提とした以下の定義がある。「マネージャ,スタッフ,顧客,市民を含め,情報の利用を望んでいる人々にとって,手に入れやすく,役に立つような形で組織体(または社会)に適切な情報を集め,保管し,処理し,伝達するシステムである。情報システムは人間活動の(社会的な)システムであって,コンピュータを利用していても,いなくてもよい。」この定義で重要なのは,情報システムが単なるコンピュータの応用ではなく,人間を含めた組織体の活動に深く関わるものであるとしている点である。たしかに,たとえばレジスタと帳簿による売上管理システム,あるいは電話・FAXによる受注システムや情報収集システムのように,コンピュータは利用していないが情報システムと呼べるものは存在する。Buckinghamらの定義が国際情報処理連合(IFIP:International Federation of Information Processing)のTC3部会とイギリスコンピュータ学会(BCS:British Computer Society)の共同作業の中から生まれたことを考えると,情報システムがコンピュータの存在を前提にしていないという主張は興味深い。
 ここでは情報システムを上記のR.A.Buckinghamらの定義を敷衍した浦等による以下のような定義を採用する。「情報システムとは,組織体(または社会・個人)の活動に必要な情報の収集・蓄積・処理・伝達・利用にかかわる仕組みである。広義には,人的機構と機械的機構からなる。コンピュータを中心とする機械的機構を重視したとき,これを狭義の情報システムと呼ぶ。しかし,このときそれが置かれる組織の活動となじみのとれているものでなければならない。」この定義にある人的機構とは,組織体および社会の仕組みをいう。その中には,その組織体または社会を構成する人間および実施手順,規則,制度,法律などが含まれる。また,機械的機構としてはコンピュータのハードウエア,ソフトウエア,データベース,通信・伝送装置,保管・蓄積装置,記録媒体などがある。
佐藤敬(2003)“5.16 情報システム
『情報社会を理解するためのキーワード :2』培風館 [85-95]から出版社の許可を得て転載します。
本稿は,情報システム学会会員である,佐藤敬氏の著作であり,学会の統一見解ではないことをお断りします。
 
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